地域と暮らしのゼロカーボン勉強会「雪国での太陽光発電」@白馬ノルウェービレッジ

6月16日、長野県白馬村にて、今年度2回目となる「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」が開かれました。この日のテーマは、「雪国での太陽光発電」。ゲストとして、本ウェブサイトで『雪国とおひさまの物語』を連載中の尾日向梨沙さんと、太陽光生活研究所の高嶋健所長が登壇。会場に集まった30人、そしてオンラインでも40人以上という参加者を前に、豪雪地にユニークな方法で太陽光発電システムを導入した「雪国飯山ソーラー発電所」の開発などについて、対談しました。


北アルプスの麓に位置する長野県白馬村は、尾日向さんが暮らす飯山市と同様に、国の特別豪雪地帯に指定されています。また、2019年12月には「白馬村気候非常事態宣言」を表明するなど、温暖化対策への取り組みを本格化。地域全体で積極的にゼロカーボンを目指しています。

太陽光発電は、脱炭素社会のエネルギーソリューションのひとつとされますが、ネックとなるのは“雪”。地元のボランティアメンバーによって発足した「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」では、「雪国飯山ソーラー発電所」での体験を参考にしたいと、今回の対談が企画されました。

まず、進行役の高田翔太郎さん(POW Japan 事務局長)より、一般家庭のCO2排出の半分は電気由来であるという実情からはじまり、再エネ導入の必要性について、また長野県での「信州のすべての屋根にソーラーを」という普及に向けた積極的な取り組みも交えながら、地域で目指すゼロカーボンへの道すじが紹介されました。

続いて、太陽光生活研究所の連携プロジェクトである「雪国飯山ソーラー発電所」の尾日向さんと、システム開発に携わった同研究所の高嶋所長が、「雪国での太陽光発電」について、詳しく解説していきます。

2年前、海辺の街、湘南から、雪国の信州に移住した尾日向さん。
「環境になるべく負荷をかけず、家で使う電気は自分たちのできる範囲で自給したかった」と、豊かな飯山の自然に寄り添って暮らす日々を紹介しながら、太陽光発電を導入したきっかけを話します。

家の前にある自家菜園では、さまざまな野菜を育てている(Photo: Takanori Ota)

しかし、尾日向さんが暮らす一帯は、最大積雪4mという豪雪地。これまで、太陽光発電は難しいとされてきた場所です。そこで、専門家である高嶋所長をはじめ、家を建てた地元の工務店、太陽電池モジュールやそれを支える架台メーカーの方々などがアイデアを出し合い、試行錯誤の末、たどり着いたのが「軒下壁面設置」という工法でした。

2020年秋、システム設置工事の様子(Photo: Takanori Ota)

ポイントは、市場にある汎用性の高い部材を用いた太陽光発電システム設置を目指したこと。多雪地域の多い日本でゼロカーボンを実現するのであれば、特注品ではなく、一般的に手に入るもので、地域を選ばず太陽光発電ができる環境を整えていくべきでは? そういったいろいろな人の思いや工夫がカタチとなった「雪国飯山ソーラー発電所」は、2020年秋より稼働し始めました。

詳しい取り組みは、『長野・飯山ナチュラルライフ 技術系うら話』からどうぞ。

尾日向さんは、冬、自宅や設置したモジュールの周囲が雪に囲まれた様子や除雪の流れをスライドショーで紹介。ここ数年でも、とくに豪雪だった2シーズンを過ごした実際の写真に、会場がざわつきました。けれども、これだけ雪が降っても発電しない日はなかったこと、雪の反射光も受けることで想定より発電量が多かったといった内容に、再び驚きの声も聞こえます。

高嶋所長からは、技術面に関する解説も。例えば、積雪対策のため、壁面に70度の角度をつけて設置した太陽電池モジュールがシミュレーション以上の成果を出していること、さらに2方位(東南側・南西側)にモジュールを設置していることが、生活のリズムにも適応しているなど、新たな発見も含め、雪国での太陽光発電の可能性について説明。とはいえ、自家発電だけで豪雪地帯の冬の電力使用量をまかなうには、やはり厳しいというのも現状です。今後の課題として、太陽光だけでなくさまざまな再生可能エネルギー利用について、地域的にも視野を広げて考えていかなくてはという話題で、およそ50分間のトークは終わりました。

対談後には、参加者の方からの質問タイムへ。
「システム設置費用はどれくらい?」「蓄電池は、生活の中でどのように利用している? 容量を大きくすれば、電気の自給率アップにつながるのでは」「壁面につけていると、モジュールからの反射光が気になるのでは? 景観にはどう配慮したのか」といった具体的な疑問が投げかけられ、予定時間いっぱいを使って質疑応答が繰り返されました。

その後、昨年度に行われた勉強会のテーマだったという「コンポスト」について、その蓋を太陽光パネルで代用しDIYしてみた! というレポート発表(渡邉宏太さん / Hakuba SDGs Lab )や、長野県が実施する、太陽光発電システム導入支援の補助金などの情報紹介(阿久津裕司さん / 長野県ゼロカーボン推進室 )なども行われ、およそ2時間近くの「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」第2回は終了となりました。

真冬の雪国飯山ソーラー発電所(Photo: Takanori Ota)

今回、太陽光発電に興味のある方、とくに雪国に住んでいる方には、ピンポイントで気になる情報が詰まったテーマということもあり、具体的に導入を検討され、詳しく調べているみなさんが集まった印象でした。雪国でも、いろいろな工夫をすれば太陽光発電ができることを、「雪国飯山ソーラー発電所」の実例から知っていただける機会になったのではないでしょうか。

「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」とは
長野県白馬村をベースに活動する「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」は、2021年5月に発足。文字通り“ゼロカーボン”をテーマに、さまざまな切り口から幅広く学べる機会を提供しています。同会事務局の石田さんに、立ち上げの経緯や実施状況について、お話を伺いました。

――この勉強会を始めたきっかけについて、教えていただけますか?
白馬村再生可能エネルギーに関する基本方針等連絡協議会の副会長として活動していた時、委員それぞれが環境やSDGsの活動をしているのですが、顔ぶれがほとんど変わらない(笑)。もっと多くの人に興味を持ってもらい巻き込みながら、活動の範囲を広げる必要があると思ったんです。同時に自らも深く広く学ぶべきと実感。そこで、子どもから大人まで、素人からプロまでが学び合える勉強会を有志で立ち上げました。

――昨年は身近な話題から国際的な取り組みまで広範囲なテーマでしたが、実際どんな方が参加されましたか?
オンラインでも開催しているので、フランスやドイツから参加してくれる“常連さん”など、世界中から集まっています。自治体の職員、大学の教授、そして小学生まで、ほんとうに多彩な顔ぶれです。延べでは500人ぐらいの参加者があったと思います。

――今年もさまざまなプログラムを予定されているとのこと。今後についてなど、教えてください。
毎回のテーマは事務局メンバーで話し合って決めています。年間スケジュールも立てたので、取り組みの全体像も見てもらいながら、広く周知していければと思います。たくさんの方に気軽に参加いただき、個人個人が実践者になってもらえるよう、私たちも頑張って活動していきます! 今後の予定は、「地域と暮らしのゼロカーボン勉強会」Facebookでご確認ください。

しくみ株式会社 代表取締役 石田幸央さん
勉強会の会場となる「ノルウェービレッジ」

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