最近、田園地帯などでしばしば見かけるようになった「ソーラーシェアリング」。畑など農地で作物を作り、その上に太陽光発電システムを設置し発電も行うことで、農業作物と太陽電池モジュールとが “太陽光を分け合って使う” という、注目の取り組みです。
農林水産省では、「ソーラーシェアリング」について「営農型太陽光発電」とし、「一時転用許可を得た農地に簡易な構造で、かつ容易に撤去できる支柱を立てて、上部空間に太陽光発電設備を設置し、営農を継続しながら発電を行う取組」と定義。再生可能エネルギー導入促進施策のひとつとして位置づけています。
具体的には、耕作地に支柱を立て、上部にモジュールを設置。モジュールは一般的な屋根設置や、産業用発電所などで使われるサイズよりも幅の狭いものが多く、また作物に適切に光が注ぎ、育成に支障がでないよう、間隔を空け、さらに角度なども調節して設置されます。こうしてモジュールと作物とで太陽光を分け合うことが可能になるのです。
これまで、メガソーラーをはじめ、太陽光発電を専門に行う大小の発電所が日本各地で造られてきました。ただし、建設には広大な土地が必要となる上、時に山林を削るなど、自然環境の破壊や生態系への影響が問題になることも多々ありました。そもそも平らな土地が限られている日本にメガソーラーはそぐわないのでは、といった疑問も広がる中、注目されるようになったのが、すでに存在する農地を活用できる、この「ソーラーシェアリング」です。
「ソーラーシェアリング」の導入は、農家や農地に多くのメリットをもたらします。同時にそのメリットを得るためには、様々な条件も必要になります。
●「ソーラーシェアリング」のメリット
(1)農地の収益を上げる
「ソーラーシェアリング」により、農地で作った自家製の電気を使う、あるいは電力会社に売ることが可能で、農業収益に加えて発電による収益も上げることができます。高齢化や若者離れが進む日本の農業を、持続可能なスタイルに近づける方法として注目されています。
(2)休耕地を有効活用
現在、地方を中心に、耕作放棄地、遊休農地の増加が問題となっています。こうした土地を活用し、一定の農業を行いながら「ソーラーシェアリング」を行うことで、農地を経済的に蘇らせ、新たに資産を生み出す場所にすることが可能になります。
(3)作物を守る遮光効果も
作物によって必要な日射量は決まっています(光飽和点)。上部にモジュールを設置することで必要以上の光を遮ることができ、これにより作物の成長を助ける効果も見込めます。作物の光飽和点に合わせてモジュールの角度などを変え、作物に当たる光の量を調節することで、耕作環境を整えるという効果も期待できます。さらには、遮光が必要な作物を育成してみるなど、新たな農業への試みも可能となります。
(4)固定資産税を維持できる
農地を一般的な野立てのソーラー発電所にする場合、農地を宅地とする「農地転用」手続きが必要になり、宅地となった土地は、農地よりも高い固定資産税が課せられます。「ソーラーシェアリング」として活用する場合は、「農地の一時転用」の手続きは必要ですが、土地は農地のままに維持できるため、固定資産税もそのまま変わりません。
●「ソーラーシェアリング」を行うために必要なこと
(1)建設費用の確保と事前計画
「ソーラーシェアリング」を行うには、農地に支柱や架台を建て、モジュールを設置する必要があり、当然のことながら資材費や施工費などがかかります。農業収益と発電収益でこの初期投資分をなるべく早く回収し、さらにプラスにしていけるよう、気象や作物などの条件を考慮した、綿密な事前計画が求められます。
(2)「農地の一時転用」手続きと一定レベルの「営農」
「ソーラーシェアリング」を実施するには「農地の一時転用」の手続きが必要になり、そのためには、下記のように適切な「営農」が行われていることをはじめ、様々な条件が求められます。また維持するためには、許可を出した都道府県庁などに、毎年、収穫量や売り上げなどについて報告する義務があります。
*実際に営農が行われているか
*生産される農作物の品質に著しい劣化が生じていないか
*同年の地域平均の8割以上の収穫があるか
*荒廃農地を再生利用した場合、適正かつ効率的に農地として利用されているか
(3)10年ごとに再許可の申請
「農地の一時転用」については、許可期間が10年以内となっています。この間、正しく営農がされていると判断された場合は、再許可の申請が可能です。つまり、モジュールの下でちゃんと農業が行われていれば、10年ごとに「ソーラーシェアリング」の延長が可能になります。
➣ 農林水産省「再生可能エネルギー発電設備を設置するための農地転用許可」
農地を有効活用して、さらに新たな資産を生み出すことができる「ソーラーシェアリング」は、これからの日本の農業を発展させる、鍵となり得る仕組みといえるでしょう。農業従事者の収益を上げることで、若者の農業離れ対策にもつなげることができ、地域経済を盛り上げ、ひいては高齢化、過疎化が進む地方での再生支援策となりうるかもしれません。こうした可能性にも着目され、積極的に「ソーラーシェアリング」を推進する地方自治体も増えています。
もちろん、太陽光発電による自然エネルギーを作り出すことで、温暖化対策に寄与することはいうまでもありません。農地を持つ人にとって、「ソーラーシェアリング」は今後、意味のある重要な選択肢のひとつとなっていきそうです。
宅地内の家庭菜園ならより気軽に実現
今回は、農地を活用して行う「ソーラーシェアリング」(営農型太陽光発電)の紹介をしましたが、“太陽光を分け合って使う”ことを、より広い意義で捉えれば、農地を持たない人の「ソーラーシェアリング」も実践可能です。
例えば、地目が宅地となっている自分の土地内で、ちょっとした家庭菜園などを行っているという方も、その上に太陽電池モジュールを設置し、自家用の発電施設を作ることは可能です。このケースでは、何かと規制のある農地を使うわけではないので、諸々の申請や手続きなどは不要。自宅の屋根や壁に設置するのとほぼ同じような感覚で、野菜や花を育てながら、気軽に「ソーラーシェアリング」が実現できます。作物に必要な光の量を考えて、適度な間隔をあけて太陽電池モジュールを設置するので、見た目にも圧迫感が少なく、宅地内に違和感なくなじみやすいのも、良い点。太陽光発電システムを導入したいけれど、屋根や壁に設置するのが難しい、あるいは既にあるシステムの増設をしたい、といった場合にも検討してみたい方法です。
太陽について、5分でおさらい!
誰でもわかる「太陽電池モジュールのはなし」
1年で一番昼間が長い日、「夏至」