Photo: Takanori Ota
建物の西面に太陽電池モジュールを壁面設置し、3.48kWの太陽光発電システムを導入した「雪国野沢温泉村コンパスハウスソーラー発電所」。70度の急斜度で設置されたモジュールは、冬場も積雪することなく順調な発電を記録してきました。それどころか、周辺の雪面から反射した太陽光も受ける「ダブルサン」効果を発揮し、定格越えの発電力を何度も記録するなど、シミュレーション値を超え、非常に高いパフォーマンスを見せてくれました。
コンパスハウスのオーナー上野雄大さんもこの期待以上の結果には大満足の様子です。とはいえ、スキーや自転車のプロショップとして稼働するコンパスハウスの店舗では、一般家庭に比べて使用電力量は大変大きく、この太陽光発電だけではまだまだ完璧とは言えません。温暖化対策のひとつとして太陽光発電を導入した上野さんは、できるだけ電気の自給自足をしたいと考えています。そこで、太陽光生活研究所は、さらに新たな提案を行いました。それは条件のいい南面屋根への太陽電池モジュール増設です。
そもそも雪国太陽光は、積雪が多く、通常の屋根設置が難しい豪雪地帯での太陽光発電を導入するための工法のひとつで、急斜度をつけた壁面設置はその大きな解決策でした。ポイントは急斜度であること。60度から70度という角度で設置されたモジュールには雪は積もりづらくなり、自然と滑雪するのです。
コンパスハウスの南面の屋根は、75度の斜度がある「絶壁屋根」。これは雪国に割と多く見られるスタイルで、いわゆる「招き屋根」の幅の狭い面を、落雪がしやすいように急斜度をつけたものです。太陽光生活研究所では、この“絶壁ぶり”に注目しました。この斜度であれば、モジュールを屋根設置しても雪が積もることはないと確信。もちろん、通常の屋根設置よりも頑丈な架台が必要になるでしょうが、それさえクリアすれば実現できそうです。
上野さん、そしてモジュールメーカーのシャープ(シャープエネルギーソリューション株式会社)とともに、増設計画へと乗り出しました。
コンパスハウスは、築40年を越える店舗兼住宅です。まずは入念に屋根裏を調査し、野地板(下地板)、垂木(等間隔に設置され野地板を固定する角材)が強度的に問題ないことを確認しました。そのうえで、シャープが新たに架台金具を設計。これは、通常の屋根置き太陽光架台をベースにしたもので、急斜度屋根に太陽電池モジュールを固定できるように改良を加えたものです。また、一般の非積雪地では野地板に架台をとめる工法をとりますが、今回は万全を期して、垂木どめにすることに。
また、モジュールの裏側に雪が入り込み、屋根の間で溜まって氷結、膨張すると屋根を傷つけ、雨漏りの原因にもなりかねません。そこで、モジュールの上部にカバーを取り付け、雪が入り込むのをしっかりガードする工夫もしました。
コンパスハウスの西面に施工したモジュールの壁面設置では、住宅の柱に対し、強固な横桟を取り付け、その上に架台を取り付ける工法を取っています。この工事にコストがかかるため、どうしても割高にならざるを得ないのが実情です。この点、急斜度屋根の設置では、雪除けカバーなど、非多雪地域で使わない部材が必要にはなりますが、平均的な太陽光・屋根設置工事と大きく変わらない工数、部材コストでの設置が可能です。
南向きで十分な大きさの「絶壁屋根」があることが条件となりますが、これもモジュールに斜度をつけて設置する雪国太陽光のひとつの形となりそうです。
コンパスハウス南面 急斜度屋根への設置システム
●モジュール:シャープ NU-375KG × 8枚
定格出力:3,000W
●斜度:75度
●連携開始:2023年10月
こうして、コンパスハウスの南面屋根に新たな太陽光発電システムが増設され、従来の西側の壁面設置のモジュールと合わせて、6kW以上の発電システムが整備されました。増設から1年以上たちましたが、発電状況はかなり好調のようです。
特に冬場に注目してみましょう。冬は暖房などによる電力消費が多く、さすがに自給自足は難しいのではと思われましたが、晴れた日には、蓄電池への満充電、さらには売電までできており、実質ほぼ電気の自給自足が実現できていました。また夜には割安な深夜電力も活用できるため、全体的に電力コストはかなり抑えることができました。
南面のシステムだけを見ても、冬の快晴時の発電力はかなり高く、例えば2025年1月18日には、3.55kWの出力を記録しています。システムの定格3kWの1.18倍と驚くべき数値です。これは、冬、雪面からの反射も受け止めるW-SUN効果が作用したものと思われます。冬場に高い発電出力を発揮する雪国太陽光の特性が、急斜度屋根設置のシステムでも実証されました。
コンパスパウス COMPASS HOUSE とは
長野県野沢温泉村、株式会社ドリームシップが経営するスキー、スノーボード、サイクリング関連のプロショップ。2010年オープン。スノースポーツやマウンテンサイクリングのギア販売からレンタル、チューニング、さらにはガイドツアーや選手の指導・育成などを実施。野沢温泉スキー場の長坂エリアにある「マウントドック Mt’ Dock」、温泉街にある「コンパスビレッジ COMPASS village」も同社営業の系列ショップ。代表者は元フリースタイルスキーヤーとしてワールドカップなどでも活躍した上野雄大さん。3児の父親であり、野沢温泉村スキークラブの副会長、野沢温泉村観光協会理事も務める。また2021年には野沢温泉村の村議会議員となり、同村の経済産業副委員長としても活動中。 https://compasshouse.jp/Vol.1 村の財産は素晴しい自然資源。それを守るためにできることを
Vol. 2 いよいよ太陽光発電システムの設置工事へ
Vol.4 野沢温泉村に循環する自然・風土・文化~その1 温泉