Vol.6 雪国ソーラーシェアリング——設置実例1 木島平村「パン工房○(まる)」のケース

Photo: Takanori Ota

雪国太陽光発電の新たな提案が、ソーラーシェアリング・タイプによるシステム導入です。「太陽電池モジュールを、屋根にも壁面にも設置できない」「モジュールをさらに増やしたい」という方に、ぜひ参考にしていただきたい内容です。

今回は、実際に雪国ソーラーシェアリングを活用されているお宅の利用状況をご紹介します。発電実績などデータと合せて、システムの具体的なパフォーマンスを確認する事ができます。

➣ 雪国ソーラーシェアリングの概要「屋根でも壁でもない、新たなソリューション」はこちら

ソーラーシェアリング+壁面設置で、開業したベーカリーをサポート

長野県木島平村に暮らす宮田伸也さんは、2024年4月1日、自宅内にベーカリー「パン工房○(まる)」を開店しました。

開業に向けては、オーブン、冷蔵庫など調理機器も導入され、電気使用量が増える事は明白。「何か環境に役立つ事をしたい」という強い思いもあったため、宮田さんは、太陽光発電を導入することにしました。とはいえ、木島平村は冬には2mもの積雪がある豪雪地帯で、一般的な屋根付けの太陽光発電システムの設置は困難なエリアです。そこで、すぐ近くの飯山市で雪国太陽光を実現している「雪国飯山ソーラー発電所」を参考に、地元の建設業者「江口建設」に相談。太陽光生活研究所も協力して、「なるべく多くの発電量を得たい」という宮田さんの希望を実現する事になりました。

当初は、南面の壁を利用して「雪国飯山ソーラー発電所」と同様の壁面設置を検討しましたが、中央の玄関が張り出しているため、朝と夕方、壁面に影ができることがネックに。そこで、南面の庭部分に着目。十分なスペースがあるここに、ソーラーシェアリング・タイプのシステムを設置することになりました。

設置面積は3.85m×8.7m、ここにTMMジャパンの「豪雪地域向けHS架台」(ソーラーシェアリング用 高さ3m、傾斜角60度)を建て、Qセルズのモジュール10枚による、4.15kWのシステムが設置されました。

一般家庭であれば、これは十分な発電量ですが、ベーカリーでは大量の電力が必要で、しかも宮田さんは出張販売用にクルマもEVに買い換えるとのこと。そこで、さらなる電力を確保するため、家の西側、ベーカリーの入り口上に、8枚のモジュール(システム容量3.32kW)を壁面設置する事にしました。これにより、合計7.47kWの容量をもつ発電システムが実現。2023年11月より発電を開始しました。

2023年11月、南面にソーラーシェアリング・タイプを、さらに西面には壁面設置を行った
表1「パン工房○(まる)」システム概要

一念発起、「職人」に憧れてベーカリーを開業
「パン工房○(まる)」 オーナー宮田伸也さん

今年4月に「パン工房○(まる)」をオープンした宮田さんは、教員からパン屋さんに転職された、ユニークな経歴の持ち主です。

「13年前に妻を亡くし、子ども2人も独立し、ひとりになって漠然と無力感を感じてしまいまして。『残った人生、何かやりがいのある事を』と考え、昔から憧れていた“職人”になってみようと思ったんです」

50歳で教員生活を終え、パン職人として修行を開始。そして5年後に、念願のベーカリー開店を実現しました。

営業は週4日。自家製のパンを作り、店頭販売するほか、近くの高校や木島村役場での出張販売も行っています。

——店名の「〇(まる)」には地球に優しい(〇)、体に優しい(〇)、食べものを捨てない(廃棄ゼロ=〇)、地域の良さを丸(〇)ごと生かす、循環型社会(〇=循環)に貢献などの願いを込めました——(インスタグラムより)。

インスタグラム @marupan_kijimadaira 

早朝からのパン作りで電気使用量は1日20kW以上に

宮田さんの1日は大忙しです。早朝からパン作りをはじめ、6時には開店。既に並んでいた地元のお客さんに次々とパンを店頭販売し、8時頃にはほとんど売り切れに。その後、休む間もなく近くの高校や村役場での出張販売用のパン作り。ランチタイムには、できあがったパンをEVに積み込み、1時間ほどの出張販売へ。店に戻っても、片付けや仕込みは続きます。

厨房では、作業時はもちろん、夜も冷蔵庫などが稼働しているため、電力消費量はかなりのもの。大型のオーブンなどは別系統の電源を利用していますが、電子レンジをはじめとする電気製品も、一般家庭以上の利用頻度となります。実際、昨年12月~今年4月までの電力消費量は、開店準備に加えて冬期の暖房が必要だったこともあり、1ヶ月588~860kWhと、かなり高い数値になっています。

朝6時前からお店の前に行列ができるほどの人気ぶり。早朝からパン作り、販売とフル稼働。お昼にはEVにパンを積み込んで出張販売も

晴天のある1日、自給率は130%

では、実際に太陽光発電システムの稼働ぶりはいかがでしょうか。ベーカリーがオープンして約1ヶ月後の5月17日の発電データを確認してみましょう(図1)。

早朝に作業を開始して、電気使用量はずっとコンスタントに続いています。この日は晴天で、発電は夜明け前から開始。順調に電気が作られ、蓄電池への充電も昼までに完了。西側の壁面モジュールもフル稼働した13:30~15:00頃をピークに、1日トータルで31.7kWhの発電量を記録しました。消費電力は24.4kWhだったので、自給率は約130%と、かなりの好成績です。パンの配達後には、EVへの充電を行ったため、一気に消費量が増えましたが、それでも発電量が上回っており、電力会社への買電もできていました。

図1 発電データ

冬場も連日スペック越えを記録!

冬の発電状況も確認してみましょう。とくに、南面に付けた、ソーラーシェアリング・タイプの発電量に注目してみました(図2)。

下記は1月29日のデータです。この日は晴天で平均気温は0℃と好条件の1日。朝から順調に発電し、11時頃にはシステム定格(スペック)の4.15kWを超えて発電。そのままスペック越えは13:30頃まで続きました。一般的な太陽光発電では、スペックの8割(このシステムでは3.3kW)を越えれば高パフォーマンスと言われます。この日は、10:00頃から15:30頃まで約5時間半、3.3kW以上を維持するほどの発電量を記録しています。

図2 発電データ

好調の秘密は「ダブルサン」効果

「パン工房○(まる)」のソーラーシェアリング・タイプは、この日以外にも冬の間、頻繁にスペック越えの発電を記録しました。晴れた日にはたいてい定格出力の4.15kWを超えて発電していたほどです。

この好調の理由のひとつは、雪国太陽光ならではの「ダブルサン効果」と考えられます。「ダブルサン」—つまり2つの太陽光の1つは、もちろん太陽から直接射し込むものです。雪国仕様の60度というモジュールの急斜度は、冬場、低い位置から射し込む太陽光を受け止めるのに最適な角度でもあります。このため、モジュールは非常に高いパフォーマンスを発揮してくれます。

そして「ダブルサン」のもう1つは、雪面からの反射光です。これは、冬、スキー場などで雪焼けするのと同じしくみ。真っ白な雪面で反射した太陽光を、急斜度で設置したモジュールが受け止めるのです。つまり、上からと下から2種類の太陽光が射し込むことで、スペックを超えるほどの発電が実現するというわけです。

太陽光生活研究所がこれまでに行った壁面設置による実験でも、この効果は実証されています。ちなみに、モジュールの傾斜角が10~20度の一般的なソーラーシェアリングでは、モジュールはほぼ上を向いている状態のため、雪による反射光など、下からの光を拾うことはまずありません。まさに豪雪対策による、モジュールの急斜度設置が生み出した「ダブルサン効果」といえます。また驚くべきことに、この「ダブルサン」による発電力アップは、年間を通じて発生する事もわかってきました。雪面だけでなく、たとえば春から秋にかけても、道路や駐車場、あるいは建物など、周囲にある様々なものからの反射光がモジュールに射し込み、それが発電量を押し上げることにつながるようです。

冬、斜度60度で設置したモジュールには雪が積もることなく順調に発電。さらに雪面の反射光を受ける「ダブルサン」効果も奏功(Photo:太陽光生活研究所)

「パン工房○(まる)」の発電シミュレーションと、これまでの消費電力、発電実績

太陽光発電システムを設置後、昨年12月から今年5月末までのデータによると、電力消費4,263kWhに対して、発電量は3,252kWhで、名目自給率は約76%でした。

夏~秋については、夏至を中心に日照時間が増え、また高い晴天率となり発電量が増える、さらに暖房ニーズが高い冬に比べて電力消費量が抑えられる、といった季節傾向があり、これも踏まえて1年間を推測すると、おおよそ発電電力量と、消費量のバランスが取れ、名目自給率100%が実現するのではないかと期待できます。

5月末時点の発電量:3,252kWh、年間発電量見込み:約7,000kWh                

5月末時点の電力消費量: 4,263kWh、年間電力消費量見込み:約7,000kWh

表2 システムのシミュレーション値と実績(※上記は単相動力のみで算出。業務用オーブンなどは三相動力を使用)
  • 太陽光生活研究所 所長 高嶋健

    太陽光発電システムプランナー。 2003年よりシャープ米国(Sharp Electronics Corporation)で太陽光発電事業に従事。太陽光発電システムの海外事業展開に携わる。2012 年よりカナディアン・ソーラー・ジャパン、2017年からはサンテック・パワージャパンでマーケティング部長、SCM調達本部長を兼務、2018年よりデルタ電子株式会社でマーケティング企画部長を務める。太陽光生活研究所 所長として、豪雪地帯に対応する太陽光システムの様々なアイデアを提案。雪国での太陽光活用の促進に日々邁進中!

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