Photo: Takanori Ota
2022年秋、長野県野沢温泉村にあるアウトドアプロショップ「コンパスハウス」に、太陽光発電システムが設置されました。ここは、隣接する飯山市と同じく、国の特別豪雪地帯に指定される雪国。このため、導入にあたっては「雪国飯山ソーラー発電所」で積雪への強さも実証された軒下壁面設置を採用することに。
では、このシステムにより、コンパスハウスではどれくらい電気の自給自足が実現でき、また、今後どの程度の経済効果が期待できるのでしょうか。導入後の10月下旬、ある晴れた日に実際の電気使用量と太陽光による発電量、蓄電池の稼働状況を調査し、その実態を検証。太陽光発電システムの効果を確認するとともに、今後さらに有効活用していく方法や省エネ対策について、オーナーの上野さんと検討しました。
まずは、「雪国野沢温泉村コンパスハウスソーラー発電所」のシステムについて紹介します。
モジュールを設置したのは、建物の西南西に面した壁。ここに70度の角度をつけて取り付けました(軒下壁面設置)。上段に2枚、下段に4枚のアレイで構成された合計出力3.48kW。店舗で使用する電気をできるだけ太陽光発電でカバーすることを目的に、12kWhの系統連系型蓄電池システムも採用しています。
設置までの経緯や工事の様子など、詳しくはこちらのページからご覧ください。
【雪国野沢温泉村コンパスハウスソーラー発電所】
モジュール:Qセルズ「Q. PEAK DUO XL G11.3」定格出力580W×6枚
パワコン:デルタ電子「H5.5J_221」定格出力5.5kW
蓄電池:デルタ電子「系統連系型蓄電システムSAVeR-AC」12kWh
架台:スワロー工業「SKソーラーウォール」
2022年9月の連系運転開始からしばらくは足場が外れず、完全な発電状態とはいえませんでした。足場撤去後以降は、晴天時には3.1kW前後で発電。順調な走り出しです。一般的に定格容量(3.48kW)に対し、8割程度の発電をすれば良好とされますが、コンパスハウスでは9割近いパフォーマンスを実現。10月30日14時15分には、定格を大きく超える3.8kW(定格比109%)の発電を記録しました。
また、10月最終週の発電量などはこちら。
標高約600m、野沢温泉村の澄んだ空気は、太陽光をよく通すのでしょう。加えて晩秋に入ったことで、気温低下による電圧上昇が出力の上昇をもたらし、安定した発電につながったと思われます。厳冬期の発電記録が楽しみです。
太陽光発電した電力を効果的に活用していくため、店舗で主に使用する電気機器の消費電力量も確認することにしました。具体的には、パワコン側と、スマートフォンなどデバイスとを連携させ、ほぼリアルタイムで発電状況や電気の消費量などがモニタリングできる仕組みを利用。電気機器のスイッチを1個ずつON / OFFし、その都度、消費電力の変化を記録するというシンプルな方法で行いました。ちなみに、「自家消費優先」等のモードの選択や、蓄電池に充電する時間帯の設定も、デバイス上で簡単に操作することができます。
コンパスハウスは、1階を店舗、2階はスタッフルーム、地下はチューンナップやストックスペースとして使っています。訪問した10月下旬は、大体朝9時頃から夕方6時頃までがビジネスタイム。Eバイクをはじめとするバイクのレンタルやツアーを実施しながら、さらに来たるスノーシーズンを前に、新モデルのスキー板が入荷したり、ギアのチューンナップが始まったりなど、なかなか忙しい時期です。
電気機器としては、おおよそオフィスにあるようなコピー機や冷蔵庫だけでなく、床暖房、照明付きのショーケース、スキーやバイクに関連した特殊なものも。とくにスキー用具のチューンナップで使う機器は、熱を必要とするものが多い印象です。その結果はというと、、
待機電力としては、1kW程度。普段、何気なく使っている電気の消費量を改めて文字通り“見”直すことで、めやすとして把握することができ、不要な使い方を控えるなど、省エネ意識の向上にもつながります。
続いて、設置したシステムについて、一日の発電量の大まかな変化を見ることにしました。
たとえば下記のグラフは、雲ひとつない10月の晴天の一日。朝6時頃から徐々に発電開始、10時頃から午後にかけて発電量が増加し、発電量が消費量を上回ると蓄電池への充電が始まります。午後には、消費電力のほとんどを太陽光発電でまかなうことができています。日没後は太陽光発電が行われないため、日中にためた蓄電池から電力を供給。グラフ内にはありませんが、その後、深夜2時過ぎまでは蓄電池からの放電で待機電力をカバーすることができていました。
このグラフからもわかるように、モジュールを西南西側に設置しているため、その正面にしっかりと太陽光が当たるのはお昼の12時頃以降です。どうしても、午前中は発電量が少なくなってしまう。その時間帯をどう補うかが、今回ひとつの課題としてみえてきました。
コンパスハウスでの日々の電気使用量と発電サイクルから、
「昼間は自家消費優先モードで太陽光発電を活用、使い切れなかった電力は蓄電し、日没後に利用。さらに安価な深夜電力を充電し、発電量が少ない午前中に使う」
というパターンが、経済効果として最も高くなることがみえてきました。
コンパスハウスの年間電力消費量は約6000kWh。今回設置した太陽光発電では、そのうち約半分の電力(3000kWh)を補うことができます。さらに、「系統連系型蓄電システムSAVeR-AC」を活用し、深夜電力を充電して日中に利用することで、年間換算では約2000kWhの安価な深夜電力を利用できます。年間としては合計約5000kWh、消費電力の80%強を「太陽光発電+蓄電池」で削減、コストダウンできます。
では、具体的にどのように消費電力を「太陽光発電+蓄電池」に置き換えていけるのでしょうか。ポイントをそれぞれまとめます。
●対策その1 できる限り太陽光発電した電力を活用する
たとえばEバイクは、1台につき平均300Wh充電が必要で、2時間くらいで充電は完了します。昼間、太陽光発電をしている時間帯に充電できればベストですが、日中はレンタルなどで出払っていることも。使用後のバイクを夕方にまとめて太陽光発電でためた蓄電池から充電を行うようにする、という方法が現実的です。蓄電池の容量は12kWh、単純計算でEバイク35台以上の充電が可能となり、電気代をかなり抑えられます。
●対策その2 割安な深夜電力利用を選定し、蓄電池の有効活用
地域の電力会社の多くでは、昼間よりも安い「深夜電力料金」が設定されています。深夜電力で蓄電池に充電をして、午前中の太陽光発電が少ないタイミングに使う(放電する)ことで、その都度、買電するよりも電気代が抑えられます。コンパスハウスでは大容量蓄電池を採用しているため、この活用方法を導入するだけでも心強い味方になります。
●対策その3 蓄電池に充電する時間帯の設定は、季節ごとに調整
夏場、晴天日の発電量は一日あたり平均15kWhくらい。一方、電力消費量も15kWh前後で、ほとんど、太陽光発電で賄うことができます。ただし、曇天日もあるので、明け方に1時間くらい深夜充電すると、ほぼ全ての消費電力を太陽光発電+深夜電力で賄うことができるのでないでしょうか。
冬場、コンパスハウスの一日あたりの発電量は冬至前後から1月は10kWh程度に。荒天日も多く、日照時間が短くなります。一方、一日あたりの電力消費量は暖房を中心に増加し、平均すると30kWhと想定されます。そこで、この期間は深夜電力を目一杯活用するように設定します。つまり、深夜中に蓄電池を満タンにしておくと、夏に比べ少なくなってしまう太陽光発電電力を、蓄電池から補うことができるのです。充電のスピードは1時間でおよそ4kWh、2時間~2時間半あれば満充電に。深夜電力の時間帯の終わり際を、充電が完了する時間と合わせて設定するのがコツです。
●対策その4 太陽光発電力の増強、モジュール増設も視野に
コンパスハウスは店舗として営業しているため、どうしても一般家庭に比べて電力消費量は多くなります。総発電量を増やすこと、つまりモジュールを増やすことも、今後、検討に値すると思われます。
たとえば、建物正面の屋根にモジュール(出力2.4kW想定)を設置すると、プラス2600kWh/年程度の発電量が期待できます。その場合、日中の電力自給率は90%を越え、夜間電力を含めても通年で80%程度まで自給率が上がると予測。経済メリットでは5万円前後と想定されます。
また近い将来、EVが広く普及すると、社用車や来客へのEV充電サービスも視野に入れる必要もあり、さらに電力が必要になります。継続して安価なグリーン電力調達を継続して考えていきたいと思います。
ちなみに、太陽光の発電量は季節の移り変わりとともに増減します。コンパスハウスのシステムでは、立春~立夏(2/4〜5/5頃)、立秋~立冬(8/7〜11/7頃)の時期に発電量が伸びます。一方、冬至~大寒(12/22~1/20頃)にかけては降雪も多くなり、発電量が大きく落ち込んでしまいます。電力消費量についても、夏と冬で季節によって異なるため、その両者のバランスをみながら、電気をたくさん使う冬は積雪時の反射光(W-Sun)にも期待しつつ、増設の可能性を探ってみるのも有効です。
有効な活用が実現した場合の経済メリットとは
今回の検証から導きだされた今後の対策を現実レベルで進めた場合、太陽光発電システム導入によるコンパスハウスの経済効果や、初期投資額の回収期間についても試算してみました。
電気料金は2021年来、上昇の一途をたどっており、太陽光発電により消費電力を太陽光でオフセットするメリットも比例的に大きくなっています。
電力料金値上げの三要素は、(1)再エネ賦課金、(2)燃料調整費、(3)調達調整費です。ウクライナ情勢後、とくに燃料調整費の高騰が著しい状況です。
コンパスハウスの太陽光発電設置検討は2021年夏頃に始めましたが、その時点のシミュレーションでは蓄電池の設置は見送ろうとしていました。現況では、税控除を含めれば十分、メリットがでます。
①初期投資(概算) 約215万円 ÷ ③年間の電気代削減メリット 約16万8千円 = 12.8年、
税控除も含めれば、7年3か月ほどで、初期投資を回収できる計算となります。
太陽光生活研究所 所長 高嶋健
太陽光発電システムプランナー。 2003年よりシャープ米国(Sharp Electronics Corporation)で太陽光発電事業に従事。太陽光発電システムの海外事業展開に携わる。2012 年よりカナディアン・ソーラー・ジャパン、2017年からはサンテック・パワージャパンでマーケティング部長、SCM調達本部長を兼務、2018年よりデルタ電子株式会社でマーケティング企画部長を務める。太陽光生活研究所 所長として、豪雪地帯に対応する太陽光システムの様々なアイデアを提案。雪国での太陽光活用の促進に日々邁進中!Vol.6 雪国ソーラーシェアリング------設置実例1 木島平村「パン工房○(まる)」のケース
Vol.1 住宅用太陽光発電システム『豪雪4メートルへの挑戦』
Vol.5 雪国ソーラーシェアリング ------屋根でも壁でもない、新たなソリューション