Photo: Takanori Ota、太陽光生活研究所
今回よりご紹介していくのは、長野県野沢温泉村のアウトドア・プロショップ「コンパスハウス」の取り組みです。「自然資源に支えられているこの村の未来を見据え、自分達ができることから」と、太陽光発電の導入を決定。貴重な環境を維持するためのこころみにのりだしました。
「雪国飯山ソーラー発電所」に次ぐ、豪雪地帯でのチャレンジ第2弾。太陽光生活研究所では、連携プロジェクトとして、その設置や稼働状況の詳細を野沢温泉村の四季の自然や伝統的な文化を交えながらレポートしていきます。
野沢温泉村は、長野県のほぼ最北端の山間にある、人口およそ3,300人の小さな集落。奈良時代に発見されたという歴史ある名泉を有し、今も「湯仲間」とよばれる昔ながらの地元組織によって13カ所の外湯(共同浴場)が管理されるなど、独特の文化が維持される温泉郷です。また、冬には豪雪地帯となるこの村は、日本有数の規模を誇る野沢温泉スキー場があることでも有名。近年では海外から訪れるスキーファンも増え、世界的に注目されるスノーリゾートとなっています。
この野沢温泉村でスキーやサイクリング関連のギア販売やレンタル、ツアーなどを行っているのが、「コンパスハウス」です。オーナーは元フリースタイルスキーヤーとして世界で活躍し、現在は野沢温泉村の村議会議員も務める上野雄大(うえの ゆうた)さん。まずはショップ設立のいきさつやコンセプトについて伺いました。
「2010年、28才の時に現役を引退し、セカンドキャリアとしてスキーの楽しさをより多くの人に知っていただく仕事がしたいと考えていました。ちょうど長女が生まれ、地元で子育てがしたいという思いもあり、村に戻って会社を立ち上げ、このショップをオープンしました。テーマは『スキーをもっと楽しく、もっと自由に』で、目指したのは『ヒト、モノ、コトが集まる店』です」
アスリート時代に世界の雪山を巡りながら見聞してきた、「スキーを楽しんでもらう仕事」という新しいビジネスモデルを、第2の人生の軸として地元で実践。現在は、コンパスハウスの他に、温泉街とスキー場の麓にも店舗を構え、Eバイクを含むサイクリングや、スキー場のゴンドラと斜面を使ったマウンテンバイキングなど、夏のアクティビティも提供しています。
「スポーツが日常の中にあることで、ライフスタイルはより豊かになると思っています。それに改めて気付いたのは実は数年前です。会社をスタートしてしばらくは自分自身スポーツを楽しむ余裕なんて無かった。でもあるとき数年ぶりにスキーの大会に出てみたら、すごく新鮮で刺激があって。そしてポジティブなアイデアも再び湧いてきたんです。このスポーツの素晴らしさを多くの人に知っていただきたい。安全で適した道具を用意して提供し、正しい遊び方を伝えるという形で、それをサポートしていきたいと思っています」
この日も早朝から、若い役場職員数人と山の中腹までEバイクでサイクリングをしてきたとのこと。中には初めて体験した人もいて、村の景色を眺めながらコーヒーブレイクを楽しんだところ、よく知った地元なのに発見がたくさんあり、とても感動していたのだとか。
「村の人たちもほとんどは子供の頃にスキーをしていたし、自然の中で遊んでいたはず。でも大人になるとやらなくなってしまう。忙し過ぎるんですね。観光客だけでなく、そんな村の人にもスポーツの楽しさを喚起したい。体験した人自身がインフルエンサーになって、さらに活動を広げて行ってくれればうれしいですね。そして一人でも多くの方の日々の生活がより豊かになっていけば、と願います」
2022年、オープン以来14年目を迎えたコンパスハウスは、太陽光発電システムの導入という新たなこころみを行うことになりました。きっかけは、スキーなどを通して地球温暖化を実感し、危機感を持ったことです。
「そもそもここは、温泉をはじめ、雪や森林などといった自然資源に支えられている村です。私たちの仕事もそれをベースに成り立っているけれど、資源は無尽蔵に続くとは限らない。実際ここにいると、気温上昇を情報としてだけでなく肌身で感じるのです。例えば野沢温泉スキー場の魅力のひとつはパウダースノーなのですが、その状態は多少の温度差で激変するし、その繊細な変化は直に感じています。また最近では雪が一気に降って一気に溶け、根雪となりづらいし、冬も短くなっている。明らかに昔とは違う、まさに異常気象なんです」
このままでは、子供達が大人になったときにスキーが楽しめないのではないか。そもそも雪がなければ、自分のビジネスどころか、村の存続にも関わる――今自分達でできる何かをしなければ、という思いが切実にあるといいます。
「もともと再エネについては興味があったので、自分でもいろいろと調べてみました。その中で、日本や世界が取り組んでいる2030年、2050年に向けての政策などを知り、より真剣に温暖化防止という問題に向き合うようになりました。今、置かれた立ち位置で何ができているか? 気候変動という言葉は口にするものの、自社での具体的な動きはあるのか? ではとにかく行動を起こしてみよう、まずは身近なコンパスハウスの電力を自然エネルギーに頼りカーボンニュートラルに近づけよう・・・と考え、具体的に建物に太陽光発電を導入することとなったわけです」
もちろん、この地は日本でも名だたる豪雪地帯。モジュールの屋根設置という一般的な方法は期待できません。そこで、太陽光生活研究所も計画に参加し、同様の条件下で太陽光発電に成功した「雪国飯山ソーラー発電所」の例を参考に、モジュールを壁面設置する方法でトライしてみることとなりました。
幸いにも、店の南に遮蔽物はなく、南面の壁の日当たりは良好。ここに6枚、Qセルズの産業用太陽電池モジュール(合計出力3.48kW)を設置し、さらに定格12kWhのデルタ電子の系統連系型蓄電システム「SAVeR AC」を接続することに。建物自体は築42年だが構造はしっかりとしている。間柱に120×60㎜の添木を充て、125角の桟木を並行に2本渡すという、頑強な基礎構造を施した上で、架台には新潟のスワロー工業が軒下壁面設置用に開発した「SKソーラーウォール」を取り付ける。こうした仕様で、9月上旬に施工工事が行われることが決まりました。
「導入後は、店内の電力を太陽光で賄い、また15台あるレンタル用Eバイクの充電にも活用したいと思います。再エネを使って充電し、自然の中で遊ぶ。目指すことに一歩近づけるような気がしますね」
雪深い野沢温泉村で太陽光発電を導入しているところはほとんどなく、コンパスハウスのこころみはまさに新たなチャレンジとなりそうです。飯山方面から県道38号線を走って村に入っていくと、ちょうど中心街への入り口あたりにコンパスハウスの建物が現れます。壁面に設置されたモジュールが太陽光を受けて輝く様子は、かなり目立つのではないでしょうか。
「村の人はもちろん、ここにやってくる観光客にも雪国での太陽光発電の可能性をアピールする機会になればと期待しています。コンパスウスの壁を見て興味を持った人が、さらにアクションを起こす、そんなムーブメントができたら理想的ですね」
次回は実際の設置工事の様子を詳しくご紹介する予定です。野沢温泉の初秋の風景もお楽しみに!
コンパスパウス COMPASS HOUSE とは
長野県野沢温泉村、株式会社ドリームシップが経営するスキー、スノーボード、サイクリング関連のプロショップ。2010年オープン。スノースポーツやマウンテンサイクリングのギア販売からレンタル、チューニング、さらにはガイドツアーや選手の指導・育成などを実施。野沢温泉スキー場の長坂エリアにある「マウントドック Mt’ Dock」、温泉街にある「コンパスビレッジ COMPASS village」も同社営業の系列ショップ。代表者は元フリースタイルスキーヤーとしてワールドカップなどでも活躍した上野雄大さん。3児の父親であり、野沢温泉村スキークラブの副会長、野沢温泉村観光協会理事も務める。また2021年には野沢温泉村の村議会議員となり、同村の経済産業副委員長としても活動中。 https://compasshouse.jp/