Text & Photo: Lisa Obinata Photo: Takanori Ota
あんなに暑くて長かった夏が嘘みたいに、山では雪の便りが届く季節の到来。初夏から秋にかけては、本づくりの繁忙期で、引きこもって原稿書きに追われていました。記録的な酷暑もエアコンなしで凌ぎましたが、ほとんど雨が降らずにジリジリと晴天が続く、本当に長い夏でした。ご近所と交わす「暑いね〜」の常套句すら、言い飽きて、秋の訪れがいつも以上に嬉しかったっけ。
8月の発電量も素晴らしく、売電量を振り返ってみると418kWh(8,778円)! 消費電力は32kWhと少なく、ほとんど売電に回せているということになります。ちなみに昨年の同月の売電量は333kWhでした。
今年はコロナ明けで様々な行事が復活し、暮らしている地区でも大きな秋祭りが4年ぶりに通常開催となりました。私たちにとっては初めて体験する地区の祭礼。普段は静まり返っている夜の神社に、こんなに人がいたのかってくらい大勢が集まり、繰り広げられる伝統行事は、感動的でもありました。
4つの集落からの灯篭行列に、薙刀、獅子舞、天狗の舞、豪華な花火打ち上げや祭り太鼓。五穀豊穣を祈念する伝統文化が受け継がれています。本来は、新しく家を建てたり、引っ越してきた家庭の家に獅子舞が厄祓いに来るという風習もあるそうです。我が家は、ちょうどコロナ騒ぎの初年度に家を建てたので、残念ながらその機会はありませんでしたが、こうして祭礼に参加することで、地域との距離感がぐっと縮まった気もしました。
さて今回のテーマは「家」。私は普段は飯山に建てた家に住んでいますが、移住前に住んでいた神奈川県藤沢市鵠沼(くげぬま)の家も管理しており、月に一度、2〜3日は鵠沼で過ごしています。かたや新築、かたや築95年の古民家。山と海という環境の違いもありますが、家そのものが対照的です。
鵠沼の家は、もともと祖父母の住居でした。移住前、10年ほどその家に私も暮らすうちに、愛着が高まると同時に、この家を守らねば、という使命感がフツフツと沸き起こってきました。
古くは日本で最初の別荘分譲地として発展した鵠沼松が岡。1区画1500〜3000坪単位で販売、海から近いため防砂林として住人たちがクロマツを植え、鬱蒼とした森とお屋敷がこの地域の景観を形成していました。それが80年代頃から宅地の分譲開発が進み、多くのクロマツも伐採。私が暮らしていた10年ほどでも、そして今もなお、近所のお屋敷がなくなったかと思えば、そこに生きていた木々も綺麗さっぱり伐採され、更地として売られていたり、1区画に20軒くらいの集合住宅が立ち並ぶ光景を目にします。
祖父母の家は昭和3年建築、広い庭には何十種類もの動植物が生き、自然と生態系が育まれています。相続に直面したとき、我が家も古い家と広い庭を維持して行くのはどうにも難しいだろうと、売却や分譲を検討しましたが、なんとかしてこのまま残せないか、と売却話を一掃したのは私。地域の歴史を語る建造物を残したいという想いと、庭に生きる動植物をどうしても守りたかったのです。
ご近所の方々の力添えもあり、国登録有形文化財として登録され、2019年より貸しスペースとして利活用することで、建物と庭の維持保存に繋げる活動を始めました。
「松の杜くげぬま」と名付け稼働してから4年が経ちましたが、本当にありがたいことに今は、ほぼ毎日利用者がいて、良い気が流れる空間となりました。貸しスペースによる収益は、建物の修繕や庭の管理費として活用させてもらっていますが、それでも築95年の家の老朽化は激しく、修繕はいたちごっこ。1箇所直せば、また別の場所の問題が見つかり、古い建物を維持する難しさを日々感じています。
鵠沼は比較的温暖で、冬も過ごしやすく、夏は海からの潮風が吹き抜け、庭の緑で暑さも軽減されるような恵まれた立地。ただ、古民家の寒さと言ったら、なかなかのものです。断熱材など存在しない時代の家、風通しのいい木造住宅は、とにかく寒い!! 長い年月を経て木製サッシは歪み隙間だらけだし、床板の隙間からは地面が見えていたりします。陽が差している日は外の方が暖かいくらい。気密性の高い部屋が少なく暖房をかけても、どこかからスースーと冷たい空気が流れ込んできます。鵠沼で過ごす冬は、室内でもダウンを着たり、湯たんぽを抱えて寝たりと、昔の人の生活様式をそのまま体験しているような感じなのです。
そんな環境のため、飯山の家に帰ってくると、なんてあったかいのだろう! とほっこりしてしまいます。冬の外気温は鵠沼より飯山の方が10度くらい低いはずなので、おかしな話ですが、それだけ家の構造による室内温度の差があるということ。
飯山の家は、冷気が入りやすい北側にガレージがあり、それがリビングと薄い仕切り1枚で接続しているという構造に、広い土間に吹き抜け、大きな窓という、寒そうな要素がたっぷりの設計。それでも暖かさを維持できているのは、断熱材に加え、家全体を暖めてくれる高温燃焼の薪ストーブと、高気密・高断熱の木製サッシが力を発揮してくれているから。
断熱材についてはちょっと少なかったかなと思う箇所もありますが、奮発した長野県産の木製サッシは大正解でした。室内の熱の約50%近くは窓から流失すると言われています。木製サッシは、樹脂やアルミに比べて断熱性が高く、さらに世界最高品質のドイツ製建具金具が採用されているため気密性も抜群。
暖房器具や燃料の工夫をするよりも、高気密・高断熱を追求することが何よりもの省エネに繋がるということは、ふたつの家の違いからも強く実感しています。もちろん断熱性の高い家は、冬だけでなく夏の暑さも室内に持ち込まないというのも大きな魅力。
鵠沼の家では、電力の自給はできていませんが再生可能エネルギー100%の電力会社を選択し、古い家を使い続けること、そして庭の緑を残すことで環境への負荷を軽減。飯山の家は、エネルギーをできるだけ使わない暮らしと、電力の自給という挑戦。まだまだ道半ばではありますが、家で過ごす時間が長い分、快適な住環境とカーボンニュートラルの両立をこれからも意識していきたいですね。
➢ 「松の杜くげぬま」で実施されるイベントのスケジュールや詳細はこちら(公式Facebook)から
尾日向梨沙
1980年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、13年間、スキー専門誌『Ski』『POWDER SKI』(実業之日本社)などの編集を担当。2013年より同雑誌の編集長を務める。2015年、フリーランスとなりスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を写真家・渡辺洋一と共に創刊。2018年より藤沢市鵠沼の自宅を舞台に歴史的建造物と周辺の緑の保存活動を開始。2020年に、湘南から長野県飯山市に移住し、パートナーのケンさんと共にハーフビルドでマイホームを建築。雪国でスキーを取り込んだライフスタイルを実践しつつ、同時に畑での野菜作りを行うなど、自然に寄り添った暮らしを目指す。2020年秋からは、太陽光発電&蓄電システムを取り入れ、できる限り電気を自給自足するこころみもスタート。長年スノースポーツに携わる中で実感してきた地球温暖化について向き合い、ケンさんと愛猫の空(ソーラー) くんと力を合わせ、自分なりのソリューションを試行錯誤中。Vol.1 海辺の町から山に移住。自給自足に近い暮らしを目指して
Vol.19 地球と自分にやさしい暮らしってこんなに楽しい
Vol.21 4年目突入の太陽光生活と、深刻な雪不足に悩まされる2024年幕開け