誰でもわかる(でも、ちょっとだけ踏み込んだ) 「オフグリッド生活のはなし」

Photo: Takanori Ota

万が一、災害などで大規模な停電が起こったとき、家庭に設置された太陽光発電と蓄電池を活用することで、どういった対応が可能になるのでしょうか。
今回のテーマは、電力会社からの電気に頼らない「停電・オフグリッド」について。自家発電・蓄電の仕組みを活用して、停電、オフグリッド状態をどのように乗り切れるか、「雪国飯山ソーラー発電所」で実際に検証してみました。

そもそも、オフグリッドとは?

「グリッド」とは、一般的には電力会社から家などに繋がる電気の送電網のこと。そして「オフグリッド」とは、この電力会社からの送電網に繋がっていない「オフ」の状態を指します。

オフグリッドというと、無電化地域や山小屋での生活などが話題に上がりがちですが、実は災害などによる長期停電も電力会社からの電気が繋がっていない状態となるため、これもまたオフグリッドとなるわけです(ここではこれを「停電・オフグリッド」と区別したいと思います)。今回の実験は、サービスブレーカーをあえて落とし、この「停電・オフグリッド」状態にして実施したものです。

自宅に太陽光発電システムに加えて蓄電池が設置されている場合には、昼間に生み出された電力をその場で使うだけでなく、ためておいた電力を夜間や停電時に利用することも可能です。そこで、オフグリッドの状態で生活をする際の電力確保として、この組み合わせがどれくらい活躍してくれるかを検証してみました。

システムの基本構成
「オフグリッド」は、上の図内にある「系統連系時」という黒い線(電力会社から送られる電気)が遮断された状態のこと

オフグリッドにチャレンジ!

9月下旬、「雪国飯山ソーラー発電所」にて、実際に停電・オフグリッド実験を行いました。太陽電池モジュール(出力5.44kW)と蓄電池 *(容量 約4kWh)を組み合わせたシステムで、1日目17時頃よりスタートし3日目の9時頃までのおよそ40時間、太陽光で発電した電力だけで過ごすことができるか、オフグリッド生活のトライアルです。

詳しくは、「雪国とおひさまの物語」「技術系うら話」でもレポート記事を掲載予定ですので、ここでは非常時にオフグリッド状態となったとき、太陽光発電システムと蓄電池をどのように活用できるか、またそのために準備しておきたいことなどをまとめました。

* 雪国飯山ソーラー発電所で使用しているデルタ電子株式会社のハイブリッド蓄電システムSAVeR-Hは、通常、系統電力と連携した状態において、太陽光で発電した電力をためて宅内で利用するため、さらに非常時に補うシステム(予備電力)として開発された製品です。完全なオフグリッド生活を目指す目的でのご使用は推奨しておりません。製品詳細は、こちらのページから。

写真左)雪国飯山ソーラー発電所の太陽電池モジュールは東南側と南西側に計16枚、軒下壁面に設置 写真右)換気扇下にあるのが、ハイブリッドパワーコンディショナ。その下が、蓄電池ユニット。向かって右側の壁には、パワーモニターとブレーカー、分電盤などが配置されている

オフグリッドから学んだこと

●まずは自立運転への切り替えを
オフグリッドとなったとき、太陽光発電システムはどのように活躍してくれるのでしょうか。
蓄電池を含んだ太陽光発電システム設置下では、停電状態を感知すると「太陽光発電+蓄電池」だけで成り立つ「自立運転モード」に自動的に切り替わるよう、予め設定しておくことができます(ハイブリッド蓄電システムSAVeR-Hの場合)。
なお、システムによっては手動での切り替えが必要なタイプもあるため、事前に取扱説明書等での確認をおすすめします。

パワーモニターの右上にある赤い「×」表示が自立運転状態を示す。パソコンでも同様に確認できる

●「同時同量の原則」を理解して、電気のやりくりが必要
電力会社の送電網と繋がっている通常の場合、消費電力を超えた余剰分は売電となるため太陽光がある限り発電は続きますが、オフグリッドの場合は蓄電池容量が満タン状態になると、宅内消費量以上の発電は行われません(電気を使わないと、発電自体も行われない状態に)。

つまり、電気の供給量と消費量は常に同じで、これを「同時同量の原則」といいます。とくにオフグリッドの状態では、
“ 太陽光発電量+蓄電池からの放電量=宅内消費量+蓄電池への充電量 ”
となります。

下のグラフは、雪国飯山ソーラー発電所でのオフグリッド実験時における電力量の推移を示すデータですが、これを見ても一目瞭然。折れ線グラフの上側は発電・放電量、下側が消費・充電量を示しており、上下が見事に対称となり、「同時同量」であることが分かります。
(ちなみに、この原則は日本全体の電力網で見ても同じ状態となりますが、詳しくはまた別の機会にお話ができればと思います)

オフグリッドで生活するには、日々使っている電力量を把握した上で、1日の発電量と蓄電池容量のバランスを見極めて、「同時同量の原則」に基づき、電気のやりくりをする必要があります。
例えば、さんさんと光が降り注ぐ昼間のうちに、エコキュートの湯沸かしや炊飯器の利用、携帯の充電などをしておいたり、同時に蓄電池も満タンにして夜に備えたりなど、太陽光エネルギーを効率的に活用する工夫が必要でしょう。日常使いの電気機器について、待機電力や消費電力等を調べておくことも大切です。エコキュートは1kW以上、炊飯器は150W(保温時)前後、携帯の充電には10W前後など、メーカーによって異なるのでそれぞれチェックを!

●1日あたりや夜間の電力使用量も把握しておく
さらに1日の電力使用量を把握しておくこともポイントです。
雪国飯山ソーラー発電所の1日あたりの電力使用量を算出したところ、9月の1か月間は平均で5.76kWh/1日。一方、太陽光発電システムの発電量を見ると、5.76kWh以上という日が80%ほどあるため、天候に問題がなければ自家発電の電気だけでも通常に近い生活ができるのでは、と期待できました。
また、1日の使用量から1時間あたりに換算すると約200Wh。この時期、太陽光発電ができない時間は約14時間なので、単純計算で約2.8kWh 分が蓄電されていれば夜間の電力もまかなえると想定。蓄電池の容量は約4kWhなので、少なくとも蓄電残量が70~80%であることが必要と計算しました。

●オーバーロードも起こりうる
蓄電池から供給できる電力量(放電)は、電力会社から送られる電力量と同じではありません。雪国飯山ソーラー発電所の場合、蓄電池からの電力は系統電力の半分程度(最大3kVA=約3kW)の出力です。いつもどおりに電気を使っていると、場合によってはシステムが落ちることも考えられます(オーバーロード、過負荷の状態)。
また、電力使用量も事前の計算通りに行かないことはあります。今回のオフグリッド実験でも、蓄電池残量も十分あり、かつ太陽光発電が行われている時間帯であっても、タンクレストイレや洗濯機を使用した際に、何度かオーバーロードが起こりました。電気機器により瞬間的に大電力を使うことやアース等が原因かと思われますが、想定外にこういった現象が起こることもわかりました。
なお、SAVeR-Hの場合、オーバーロードとなっても、パワコン下部にある非常停止ボタンやパワーモニターを使ってその都度、再起動することでトライアルを続けることできました。
(詳しくは操作ガイドをよく読んで、安全に留意して行ってください)。

●非常時ならではの先読み対応を
そのほか、蓄電池の残量が20%を切ると出力が不安定になりがちなため、完全ゼロをなるべく避けて消費電力量に気を付けたり、15時を過ぎると充電回復が厳しくなるため、午前中できるだけ早い時間帯に充電残量の回復を図るなど、オフグリッド状態を先読みしての工夫が必要でした。

写真左)オフグリッドの仕組みや、想定されるトラブルとその復旧方法などを事前に確認 写真右)昼間に太陽光をしっかりと受け、発電を行うモジュール

まとめ

今回のトライアルでは、2日目を迎えた明け方(6:00前)に蓄電池残量が5%以下となってしまいましたが、それとほぼ同じタイミングで東南側の太陽電池モジュールから発電が始まったことで消費電力をカバーすることができ、また消費電力を超える分が蓄電池へと充電され、蓄電池残量ゼロという状況も免れました。以降、晴天にも恵まれ、順調に発電。蓄電された電力だけで、2日目の日没から3日目朝にかけて、ほぼ通常通りに過ごすことができました。

普段から省エネ意識が高く、もともと消費電力を抑えたライフスタイルで過ごす雪国飯山ソーラー発電所の尾日向さんと三本木さん。さらに、安定した発電量が見込める秋の時期を選んだため、オフグリッドでも日常と同じ生活をできるだろうという想定は、概ね問題なく実証されました。

ちなみに、洗濯機など一部の電気機器の使用はできませんでしたが、停電や災害時のライフライン確保として考えれば、電力量は十分。逆に停電時には、不要な電気機器の電源を抜くことで、安定したオフグリッド状態の維持にも繋がることがわかりました。

太陽光で発電した電気だけであかりが灯る

※今回「雪国飯山ソーラー発電所」におけるオフグリッド生活トライアルは、電気工事士の立ち会いの下で行いました。ご家庭でオフグリッド生活を体験される際には、同様に電気工事士にご相談・立ち合いの下、安全を十分に確認した上で行ってください。
また、太陽光発電システムや蓄電池を新規設置される場合、設置完了時に設置工事士の方と共に試運転を兼ねて、短時間でもオフグリッドを行われることをおすすめします。

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