Vol.1 住宅用太陽光発電システム『豪雪4メートルへの挑戦』

初めて尾日向邸 を訪問したのは5月の中旬 で、 大きな片流れ の屋根の美しい一軒家だ。 薪ストーブの煙突を避けて太陽電池パネルを設置しても15kWは十分載るだろう。『太陽光発電システムは設置できますか?』との問いに、 OK OK !と 軽く引き受けてしまった ・・・が、大きな間違いだった。

長野県飯山の山間部は、日本でも有数の豪雪地帯だ。長野県 北信建設事務所 が発行する地域毎の垂直 積雪量を調べると4メートルエリアだ。そもそもスノーカルチャー専門誌『 Stuben 』の編集にもかかわる尾日向氏が雪の降らないところに住む訳がないのだ。

一般的な太陽電池モジュールは、縦1.7メートル、幅1メートル程の強化ガラスをベースに作られている。 大型台風の風圧に耐えるとはいえ積雪は別物だ。メーカーによって異なるが、1.5 メートル 2 メートルの 垂直積雪が限界で4メートルは論外だ。4メートルの積雪荷重は12000PA相当で、1.7 ㎡の通常モジュールであれば2t程度の荷重がかかる計算になる。太陽電池モジュールは当然もたないし、架台 屋根ももたない 。自分の人生を思い返すと、数多くの失言があったが今回は特大級の失言だ。

太陽光発電に携わって20 年近くになる。アメリカ、オーストラリア、フランス、イギリス、日本と住宅用太陽光発電システムを手掛けてきたが、積雪地での経験は殆どない。実は、太陽電池モジュールは雪が苦手なのだ。だが 、日本は日本海側を中心に広範囲に豪雪地が連なる。2050年、カーボンニュートラルを目指す日本で、 雪国を除いて良いわけがない 。「 進んで取り組め困難に」豪雪4メートルへの挑戦が始まった。

汎用太陽電池モジュール、と一般的な架台を組み合わせて積雪4メートルに対応できないだろうか?雪国に手頃な価格で太陽光発電を導入する方法を見つけたい。無茶かなと思ったが、モジュールメーカー、架台メーカーの方々に相談を持ち掛けると意外にも多くの協力を得られた。 太陽光発電を拡げてゆきたいという思いは業界内共通なのだ。様々なアイデアが持ち込まれては、議論された。

下表に主なアイデアと検討結果を纏めてみた。「太陽光発電を雪国へ」という挑戦には歴史があり、様々な手法が試されてきたが、、定番となる成功事例はない。

アイデア検討結果
屋根に20度程度の架台を構築しモジュールを設置する。(元の屋根勾配30度と合わせ50度にする。)構造設計が困難。コストが割高になる。また、滑雪性能が恒久的に得られるか不安が残る。
2メートル 以上積雪したら雪下ろしする。雪下ろしサービス契約するにしても、豪雪で尾日向邸へのアクセスが遮断される 可能性がある。モジュール 上での雪下ろし作業は危険。
温水融雪装置を取り付ける。融雪装置の長期寿命(25年相当)が担保できない。流水による屋根材、架台の錆促進などの問題もある。
フレームレスモジュールを設置する。一般的に販売されていない。長年の積雪、風荷重による不陸により滑雪性能が落ちることも想定される。
陸上に斜度50 度以上の架台を構築、モジュール設置する。モジュールを4メートル 以上の高さに設置することが求められる。横置き2段で設置しても全高6メートル弱、2階建て程度の建造物になる。
融雪機能付きモジュールを設置する。量販されているモジュールがない。長期保証が不透明 。

約3か月、様々な方々と話をした。 仕事の合間をみては文献を漁り、飯山にも幾度か足を運びヒントを探した 、が 、妙案はでてこない。
日本の豪雪に、主流の屋根置き・ 太陽電池設置では敵わない。 美しく魅力的な片流れの屋根を諦め 、思考を再整理することにした。いずれにせよ架台が必要になるので、架台メーカーのカタログを片っ端から眺めていたらスワロー工業株式会社の「SK フレーム」が目に留まった。主に事業所などの金属屋根で傾斜をつけるための架台だが、これを壁面に設置すれば・・・とのアイデアが転げ出た。壁面に急角度(60度から80度)で設置すれば、垂直積雪は大幅に低減できる。

すぐさま、フットワークが良いことで定評の「スワロー工業」の吉田氏に電話した。
『もしもし吉田さん!』、『これだこれだ』・・・『高嶋さん、なんですって??』
なにはともあれ、豪雪4メートルをブレーク スルーした瞬間だった。軒下・壁面設置 工法が産れた。

後日、「スワロー工業」は、軒下・壁面設置用架台「SK ソーラー・ウォール」として完成させる。住宅壁面への設置となる為、意匠性も重要だ。景観条例も通さねばならない。ZAM鋼板にチャコール色の粉体塗装を施したスペシャルバージョンが登場した 。
残る問題は「SK ソーラー・ウォール」を採用した 、国内初の太陽光発電システムの施工である。壁面への取り付けをどうするか? 架台構造には住宅の寿命並みの耐久性を持たせたい。
そこで、尾日向邸の設計、建築を手がけた江口建築事務所(飯山市)に 、施工元請けを委託することにした。太陽電池アレイを取り付ける基礎構造の設計は、一級建築士 、中沢氏が手掛けた。南西面の上段アレイには 胴差を中心に120㎜角の桟木を、下段は90㎜角の桟木を 、東南面は壁面に60㎜ X 120㎜の桟木を通した。
一般的な住宅屋根設置では垂木に太陽電池架台を固定するが、垂木は45㎜ X 60 ㎜(または75㎜)程度 の角材だ。桟木と表したが、柱や母屋に使用されるレベルの構造材を基礎に太陽電池アレイが取り付けられた 。 更に、匠の技ともいえる塗装、施工仕上げが住宅壁面と太陽電池アレイとの一体感を高めた。
「SK ソーラー・ウォール」架台の取り付けとモジュール設置、 電気工事は協立電機株式会社(飯山市) にお願いした。5つの小アレイから構成されるレイアウトは配線工事泣かせだが、パワーケーブルをすっきりと収めた 素晴らしい工事を行った。「SK ソーラー・ウォール」 の詳細と、施工工事の模様は 、是非、 別の号で紹介したい。

斯くして、積雪 4メートル地域対応・太陽光発電システムは、10月23日に竣工、系統連系運転を開始した。

図面:江口建築事務所提供

尾日向氏は『雪国飯山ソーラー発電所』と命名。定格出力5.4kW、東南と、南西、それぞれ異なる面に 70度の斜度で設置した2.7kWの太陽電池アレイは、従来の屋根置き太陽光発電システムとは一線を画した パフォーマンスを発揮した。太陽電池アレイ毎に独立したMPPT(最大動作点追尾機能回路を備え、2基の太陽光発電システムがあるかのように出力するのだ 。午前中は東南のアレイが、午後は南西のアレイ を中心に発電、蓄電池を再充電しつつ、宅内の電力消費を満たす・・・・ ・ この続きは次回 「技術系裏ばなし」で。
つづく

  • 太陽光生活研究所 所長 高嶋健

    太陽光発電システムプランナー。 2003年よりシャープ米国(Sharp Electronics Corporation)で太陽光発電事業に従事。太陽光発電システムの海外事業展開に携わる。2012 年よりカナディアン・ソーラー・ジャパン、2017年からはサンテック・パワージャパンでマーケティング部長、SCM調達本部長を兼務、2018年よりデルタ電子株式会社でマーケティング企画部長を務める。太陽光生活研究所 所長として、豪雪地帯に対応する太陽光システムの様々なアイデアを提案。雪国での太陽光活用の促進に日々邁進中!

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