Photo: 長野県「雪国飯山ソーラー発電所」(2020年12月撮影)
この冬は各地で記録的な大雪となった。冬至直前に日本海側を中心に大雪警報が発令され、年末年始に二回目の大雪警報が発令、そして成人式を挟んで第三派襲来である。「雪国飯山ソーラー発電所」周辺も大雪が降った。今シーズンの最大積雪深度は3Mを越えるだろう。水平荷重に換算すると、ざっくり太陽電池モジュール1枚当たり1.5トン前後だ。一般の屋根置き住宅用太陽光システムはひとたまりもない。
Vol.1で、豪雪地では屋根置きでは膨大な積雪荷重をかわせないと判断して、軒下壁面設置を開発、東南、南西の二面に太陽電池アレイを設置したという経緯を紹介した。見ての通り、豪雪対応はひとまず成功だ。降雪時は70度設置された太陽電池モジュール表面に多少雪が積もるが、晴れ間が出てくると直ぐに溶けだし落雪、発電し始める。太陽と雪原からの反射光を受け、太陽電池は定格を越える発電パフォーマンスを発揮する。通常時には滅多にないことで、熱烈な太陽光発電マニアは狂喜乱舞してしまう。
今回は、「雪国飯山ソーラー発電所」の発電パフォーマンスを、シミュレーション及び、発電データを交えながら詳しく紹介したい。発電パフォーマンスも、なかなかの高成果を上げているのだ。
目次
一般的な住宅太陽光発電システムは、南向きの屋根面に太陽電池アレイを設置する。一部、南向きの屋根がない切妻屋根で東西両面に設置したり、寄棟屋根で複数の屋根面に設置したりすることがあるが、大半は南向き1面設置である。これを、「1方位1面《シングル発電》」と呼ぶことにする。
「雪国飯山ソーラー発電所」は、東南、南西にそれぞれ2.72kWの太陽電池アレイを70度の急傾斜で設置している点が特徴だ。これを上記に対して「2方位2壁面≪ダブル発電≫システム」と呼ぶことにした。2壁面の太陽電池アレイは、それぞれ、デルタ電子製「SAVeR-H 5.9kWハイブリッド・パワーコンディショナ」の「MPPT回路(最大出力点追尾機能)」に接続されていて、あたかも独立した2基の太陽光発電システムがあるかのようなパフォーマンスを発揮するのだ。
2方位2壁面《ダブル発電》は、1方位1面《シングル発電》と比べ、広範囲で太陽軌道に応じることができる。太陽は1年を通じて東から西へ、季節によって高度を変えながら軌道を描いている。例えば、最も一般的な真南30度に設置された1方位1面《シングル発電》の場合、南中時に最大発電量を出力するが、太陽高度の低い朝夕の発電出力は心もとない。また、年間では夏至を中心に最大発電量を出力するが、冬場は出力が大きく減少する。冬場は太陽高度が低く、アレイ面にあたる日射量が著しく減少するからだ。
一方、2方位2壁面《ダブル発電》の「雪国飯山ソーラー発電所」では、朝、日の出とともに出力が急上昇し、一日を通じて安定した発電量が得られる。また、夏場と、冬場の発電量差が少ないことも特長だ。2方位急斜度のアレイが広く太陽軌道をカバーするので、年間を通じての発電量のバラつきが少なくなるのだ。
NEDOのMETPVを利用して発電シミュレーションを作成したのでご覧いただきたい。真南30度《シングル発電》、と「雪国飯山ソーラー発電所」を模して、東南70度、南西70度《ダブル発電》の冬至、夏至の発電量をプロットした。各アレイは定格5.4kWで計算している。
《ダブル発電》では東南、南西、急斜度(70度)の太陽電池アレイの組合せにより、季節を問わず、日の出から日の入近くまで、一日を通じて高い発電量を維持することができる。日の出とともに東南のアレイが発電を開始し、午後から日没は南西のアレイが中心に発電する。冬場でも朝8時頃に、夏場では6時に2kW出力に到達する。一方《シングル発電》では、冬場の発電量が著しく低下する。朝方、夕方の出力も弱い。夏至でも15時を過ぎたら2kW出力を下回る。高出力を維持できる時間は短く、南中時を中心とした時間帯に限られる。
《ダブル発電》は、①太陽光発電電力の自家消費率の向上、②自然災害などによる停電時の電源、③積雪時の発電量向上など素晴らしいメリットがあるが、この号では自家消費率の向上について紹介したい。停電時の電源、積雪時の発電量の特長は別途紹介したい。
太陽光発電電力の買取価格は年々下がっていて、2020年度の買取価格は21円/kWhだ。一方、電力会社から買電する電気料金は電力会社やプランにもよるが30円/kWh前後だ。インフレなどを考慮すると、将来、更に値上がる可能性もある。買取価格が電気料金より高かった時代は「年間発電量」を最大化することで「経済メリット(=売電収入)」を高めた。
住宅用太陽光発電システムのオーナーが、売電量を増やすため、極度の節電家になるという話があった。夏場暑くてもエアコンを我慢、冷蔵庫の開け閉め回数を減らし省エネ、宅内家電品の待機電力削減に取りくんだ。発電した電力を少しでも使わず消費電力を減らした分、売電収入が増えるという算段だ。ところが、今では電気料金が高くなり、売電価格が下がってしまった。すると、自分が使用する電力を賄う為に太陽光発電を導入する。「売電はほどほどでよい」という志向に変化しつつある。
「雪国飯山ソーラー発電所」は、自家消費優先の設計といえる。オーナーの尾日向氏がホームオフィスとして利用されるということもあり、日中の生活時間帯に安定発電する2方位2壁面《ダブル発電》はメリットがあると言える。
NEDO METPV-11の365日/1時間データを用いて時間帯毎のシミュレーションを行い、年間発電量と、年間発電量から自家消費に充当される電力量を換算し、発電量に対する自家消費比率を計算してみた。
自家消費比率が高いほど、自家消費効率が高い発電システムと言える。自家消費電力量の前提として「7時から18時に10kWhを消費、残りを夜間とし5kWh/日」とした。年間を通じ同一の消費量で計算した。比較対象として、真南30度設置《シングル発電》システムの自家消費比率を計算してみた。(太陽光発電のみ。蓄電池充放電は含まない。)
年間発電量kWh | 自家消費分kWh | 自家消費比率 | ||
東南/南西70度 | ダブル発電(雪国飯山) | 4,288 | 2,442 | 57% |
真南30度 | シングル発電 | 6,397 | 2,798 | 44% |
雪国飯山《ダブル発電》の自家消費比率は57%だ。真南30度《シングル発電》に対し13%高い自家消費比率だ。ハイブリッド蓄電システムとの組み合わせで、更に、自家消費比率を高めることが可能だ。計算上の最大自家消費率は94%に達する。
真南30度設置《シングル発電》は年間発電量では大きく上回る。発電量を最大化するという観点でコストパフォーマンスに優れたシステムだ。「雪国飯山ソーラー発電所」では、4M積雪をかわすため屋根上設置を諦めたが、積雪の恐れがない地域で南向きの屋根があれば、まず南向きの屋根に、自家消費電力量を勘案した適量の太陽電池アレイを載せ、加えて、生活時間帯やライフスタイルに合わせて壁面設置を追加するのがお勧めだ。
多くの人に当て嵌まる組み合わせはないか・・・と、問われると答えに窮するが、ハイブリッド蓄電池システムと組み合わせ、東向きの壁面アレイを追加することが一案ではないかと思う。夜間使用した蓄電電力をできる限り午前中の早い時間帯で充電回復することで、自家消費比率を向上できるからだ。
ハイブリッド蓄電池に太陽光で発電した余剰電力を充電することで、自家消費率を向上させることができるが、それには二つの方法がある。
一つは、日中の余剰電力を充電し夜間給電するという、よく知られている方法だ。もう一つは、日中、電力消費が多く、太陽光発電で賄いきれない時に、ハイブリッド蓄電池から給電し不足分を補うという方法だ。日中の電気代の高い時間帯の買電量を節約できるメリットがある。「雪国飯山ソーラー発電所」の実発電データを紹介しながら説明したい。
日中充電、夜間、蓄電池から電力供給
「雪国飯山ソーラー発電所」の、12月6日の発電データを見てみよう。発電データはデルタ電子が提供するマイデルタ・ソーラークラウドからパソコン、スマホで容易に閲覧することができる。
夜間、蓄電池が空になった状態で朝を迎えた。日の出と共に発電量が急上昇、2方位2壁面設置の特長だ。
充電量も上昇、午前中に満充電完了した。午後は、ほとんどの発電量を売電している。日没後は、蓄電池から給電して自家消費分を賄い、太陽光発電電力の自家消費率を向上した。
日中充電、太陽光発電不足分を蓄電池から補助、買電を減らし、自給率向上
11月27日のデータを見てみよう。
この日は午前中、曇りがちで日射量が得られなかったが、昼頃、突然、晴天が訪れた。SAVeR-Hの3kWの急速充電性能により1時間足らずで満充電にした。一日、好天が続くとは限らない。天気の急変に備え、短時間で満充電できることは自給率を高める上で必要とされる性能だ。
夕方、天気が再び悪化、発電量が大きく落ち込むが、蓄電池から給電することで賄った。買電量を減らし自家消費率の向上に貢献した。
「雪国飯山ソーラー発電所」は、積雪4M荷重をかわすために軒下壁面設置を考案、結果、2方位2壁面設置の太陽光発電システムがうまれたが、このシステムは雪国だけでなくマンションなどの集合住宅や、商用建物などにも応用できるのではないかと思う。
また、東、西向きに設置される太陽電池アレイは、日中の生活時間帯に発電量を効率よく確保し、更に、蓄電池システムと組み合わせれば、日射量の増減などによる発電出力の急変を吸収し安定した自家消費用の電力を供給できる。余剰電力を充電し夜間利用すれば、更に、電力の自給自足率(自家消費比率)を大きく向上できる。
CN2050(カーボンニュートラル-CO2排出実質ゼロ)に向け更なる太陽光発電の導入量拡大が期待されるが、雪国も、マンションや商用ビルは巨大な太陽光未開拓エリアだ。従来の発電量(=売電量)を追い求めた《シングル発電》に捕らわれず、自家消費を目的とした様々な《ダブル発電》システム、更には《トリプル発電》が進化、発展することを期待したい。
壁面設置を一般的な工法として確立させるためには、様々な検討課題が残されているが、「雪国飯山ソーラー発電所」の取り組みが、太陽光未開拓エリアを開く一助となれば有難いと思う。
太陽光生活研究所 所長 高嶋健
太陽光発電システムプランナー。 2003年よりシャープ米国(Sharp Electronics Corporation)で太陽光発電事業に従事。太陽光発電システムの海外事業展開に携わる。2012 年よりカナディアン・ソーラー・ジャパン、2017年からはサンテック・パワージャパンでマーケティング部長、SCM調達本部長を兼務、2018年よりデルタ電子株式会社でマーケティング企画部長を務める。太陽光生活研究所 所長として、豪雪地帯に対応する太陽光システムの様々なアイデアを提案。雪国での太陽光活用の促進に日々邁進中!Vol.2 東南、南西壁面の「太陽光ダブル発電システム」は太陽光の自家消費時代を開く!
Vol.6 雪国ソーラーシェアリング------設置実例1 木島平村「パン工房○(まる)」のケース
Vol.4 「雪国野沢温泉村コンパスハウスソーラー発電所」太陽光発電と蓄電池の有効活用を検証