Vol.7 雪国太陽光——設置実例「超高断熱構造の新築住宅に壁面設置」野沢温泉村 Y氏邸

Photo: Takanori Ota、太陽光生活研究所

長野県野沢温泉村に高断熱の新居を建て、壁面設置工法による太陽光発電システムを導入されたYさん。豪雪地帯でこの「雪国太陽光」システムを導入するまでの経過をご本人に伺うとともに、厚い断熱構造を持つ壁への設置にまつわる工事の工夫点などをご紹介します。

大好きなスキーが楽しめる野沢温泉に新居を計画

スキーが大好きで、大学時代より東京から野沢温泉に通っていたというYさん。結婚後もご家族で雪山に行き来していましたが、「定年後もストレスなくスキーを楽しみ続けるためには、拠点作りが必要」と、2024年に様々な思い出のある野沢温泉村に家を新築。東京との二拠点生活がスタートしました。

新居には、雪国太陽光のシステムを導入しました。家の東南東面に、10枚の太陽電池モジュールを、約60度の角度をつけて壁面設置。4.35kWの発電容量があるシステムには、9.5kWhの蓄電池も接続されています。

新居をベースに週末に息子さんとスキーを楽しむYさん。野沢温泉スキー場にて

壁面設置で、「雪国問題」を突破

Yさんは、太陽光発電システムの導入を最初から計画していたそうです。というのも、東京のお宅では、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が始まった直後の2010年に5kWの太陽光発電システムを設置し、しかもその後、11kWhの蓄電池も導入しており、電力は自給自足に近い状態で、そのメリットを十分に理解されていたためです。野沢温泉でも「冬は雪で閉ざされたとしても、春夏秋で自然エネルギーの恩恵を受けられるならと、太陽光と蓄電池の導入はマストでした」といいます。

雪に覆われる冬の野沢温泉村

ただし、ここで豪雪地帯ならではの問題にぶつかりました。どのハウスメーカーに相談しても、この地での太陽光発電システムの屋根設置については協力が得られず、建築士である奥様からも「野沢温泉の積雪は、モジュールの積雪耐荷重上限をはるかに超える量だからあきらめざるを得ない」とのアドバイスが。Yさんは途方にくれてしまったそうです。

ところが、その奥様が、太陽光生活研究所のウェブサイトで、同じ村内にあるコンパスハウスの壁面設置の事例を発見。さっそくYさんご本人から太陽光生活研究所に連絡をいただき、壁面設置の可能性を検討することになりました。そこから、工事実現に向けて、事態は一気に動き始めました。

超断熱構造の分厚い壁に、いかにモジュールを設置するか

Yさんは、新居に大手ハウスメーカー、一条工務店のプレミアムブランド「グラン・スマート」を採用。豪雪・寒冷地帯で快適に暮らせる、最新の超高断熱住宅です。今回は新築家屋で、壁面設置の工事においては、外観維持などにもひときわ配慮が必要です。しかもこの住宅では、超高断熱機能を実現するため、140mmの内断熱材と、50mmの外断熱材から構成される「外内ダブル断熱構法」を採用しており、これが大きな特徴となっています。その壁面にモジュールを取り付けるわけですから、一般的な住宅以上に慎重な工事が求められます。

そこで、太陽光生活研究所では、住宅太陽光発電システムの設計、施工においても確かな技術力をもつシャープと、野沢温泉村の建設会社である三興建築に「外内ダブル断熱構法」攻略のための調査検討、架台、工法開発をもちかけました。

壁面設置をするには、太陽電池モジュールを置く架台を支える頑丈な横桟をつけることが必要で、それには、この厚いダブル断熱構造を越えて住宅を支える柱まで、長尺のコークスクリューを正確に、しっかりと打ち込み、横桟を柱に緊着(構造強度が保たれるようにしっかりと結合)させなければなりません。

一条工務店 グラン・スマート壁内構造

そこで、一条工務店から住宅の詳細な設計図面を受け取り、三興建築のベテラン建築士と、シャープの技術者の間で、綿密な検討作業が行われました。現場検証も重ね、施工方法の確認を繰り返しました。

いかに横桟を住宅の柱に緊着させるか、綿密に打ち合わせ

雪国では超断熱住宅への壁面設置も標準になり得る

まさに「微に入り細を穿った」念入りな施工準備に基づき、工事当日も、とにかく慎重に、確実な作業が実施されました。そして無事に設置は完了。シャープと三興建築の技術と経験があってこその結果といえます。こうして、2024年12月末からYさん邸の太陽光発電システムが稼働を開始しました。

壁の中のダブル断熱構造を越えて内部の柱にしっかりとスクリューを打ち込み、横桟を緊着。しっかりと安定した横桟に架台を固定しモジュールを設置

野沢温泉村のような豪雪地帯、かつ寒冷地では、住宅の断熱性能向上は地域課題でもあり、このように内断熱、外断熱の双方を取り付ける住宅は今後増えると思われます。特に豪雪地のZEHでは標準的な仕様になっていくかもしれません。今回の雪国太陽光・壁面設置は、知見を高めるうえで貴重な機会となりました。

システム稼働後、まだあまり時間がたっていませんが、Yさんに実際の発電状況などを聞いてみました。年末から年明け以降は毎日のように大雪が降っていたこともあり、今のところ発電実績はあまり芳しいとはいえない様子です。
「しかし、曇り空でも地面の積雪からの反射光による発電量があり、それを見ると実力値は高いと感じています。住んでみて理解しましたが、午後、スキーから戻ってくると部屋中が明るいのに驚きます。雪の反射光は想像以上に明るい」とのこと。雪面反射による「ダブルサン」効果が大きいことを実感されているようです。

「そもそも、屋根上設置の太陽光を検討していた時は、積雪のある冬場の発電はあきらめていました。しかし、壁面設置のモジュールだと、着雪しても、雪がやめば数時間で自然落雪し発電してくれます。南側のお隣さんが今後新築される形状にもよりますが、南面にモジュールを追加できるように配管を仕込んでいます」と、さらに増設も視野に入れている様子。その際には、改めてお話を伺おうと思います。

Y氏邸 太陽光発電システムの概要

●発電所名:雪国野沢温泉村前坂ベース・ソーラー発電所
●モジュール:SHARP NU435
定格出力435W×10枚(4.35kW)
●パワーコンディショナ:SHARP JH55NF3
(蓄電池連携型パワーコンディショナ)
●蓄電池:SHARP JH-WB2021
定格容量:9.3kWh

一条工務店「グラン・スマート」シリーズの「断熱等性能等級6」「一次エネルギー消費量等級6」住宅へ、モジュールを壁面設置

  • 一般社団法人 太陽光生活研究所 代表理事 高嶋 健

    太陽光発電システムプランナー。 2003年よりシャープ米国(Sharp Electronics Corporation)で太陽光発電事業に従事。太陽光発電システムの海外事業展開に携わる。2012 年よりカナディアン・ソーラー・ジャパン、2017年からはサンテック・パワージャパンでマーケティング部長、SCM調達本部長を兼務、2018年よりデルタ電子株式会社でマーケティング企画部長を務める。2020年より太陽光生活研究所を率い、豪雪地帯に対応する太陽光システムの様々なアイデアを提案。雪国での太陽光活用の促進に日々邁進中!

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