Vol.22 雪国ソーラーシェアリング、始めました

Text & Photo: Lisa Obinata Photo: Takanori Ota

ウインターシーズンも折り返し。前回レポートしたように、深刻な雪不足は2月になっても継続中で、まとまった雪は滅多に降らずに、融雪が進んでいます。これでも信州はまだ恵まれている方で、全国各地でハイシーズンでも営業ができないスキー場があったり、スキー大会やイベントが雪不足により中止になる例も次々と発生しています。

「スーパーエルニーニョ現象」なんて呼ばれ、数年に一度は起きる自然現象だから仕方ない、という考え方もあるかもしれませんが、人為的な要因による気候変動が伴っていることは間違いなく、環境問題を真剣に自分ごととして捉えなければならないという思いは強まるばかり。

そんななか雪国飯山ソーラー発電所では、さらなる電力自給率の向上を目指し、大きなチャレンジが始まりました! 今回は敷地内に新たに設置した「ソーラーシェアリング」を中心に、システムがどのようにグレードアップしたのか、ご紹介します。

ソーラーシェアリング設置の背景

2020年にスタートした雪国飯山ソーラー発電所では、東南と南西の軒下壁面に70度の角度をつけて設置した合計16枚の太陽電池モジュールと、ハイブリッド蓄電システムを導入。真冬でも発電量がゼロとなることはなく、豪雪地帯に対応する新システムとして実績を積んできました。

参考数値として2022年の発電量を見てみると、年間総発電量は5,140kWh、総消費量は4,720kWhと、一年を通してみると電力の自給自足を達成しています。これだけの豪雪地帯において、自然エネルギー100%(名目上)で暮らすことができるということはすごいことだなぁと改めて実感します。

ただ、これからの暮らし方として、大きな課題を感じているのは、地方生活者にとっては欠かせない車の存在。現在は、クリーンディーゼル車を選び、買い出しはできるだけまとめる、エコドライブを心がけるなど意識はしつつも、CO2排出量を抜本的に減らすにはやはり電気自動車への切り替えを進めるべきではと思います。

現状の発電量では足りないけれども、モジュールを増設し、太陽光発電で、自家用車のエネルギーまで賄えたら・・。

なんとなくそんなことを思い浮かべている時に、太陽光生活研究所から我が家の周辺に点在する畑で「ソーラーシェアリング」はできないだろうか、という提案をいただきました。

*ソーラーシェアリングについての詳細はこちらをご覧ください。

我が家の畑は5面もあり、農家でもないのでふたりではなかなか使い切れないでいました。なかでも東側の畑なら、建物とも近く、日当たりもいいのでシェアリングにはもってこいでは、と話が進みます。

太陽光生活研究所としては、「CN2050」(※)に向けた雪国での未来型住宅のモデルケースとして実験に挑むことになります。積雪4m地帯で、壁面設置&ソーラーシェアリングで電気の完全自給を目指すというのは、業界初どころか『世界初』の試みとも言えるそうです!

※2020年10月に政府が発表した2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指す宣言。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにする目標のこと。

苦戦を強いられた設置工事

モジュールの土台となる架台の設計と開発、協力メーカーとの協議など、さまざまな準備で構想から長い時間を要しましたが、2023年11月、いよいよ施工工事が始まりました。

今やソーラーシェアリングは珍しいものでもなくなりましたが、ここでも豪雪地帯ならではの特徴が光ります。それは積雪3mにも埋もれない高さのある架台に、雪の圧に負けない耐久性。基礎部分(スクリュー杭)のおよそ1.6mが土中に埋め込まれており、強度を確保します。

全ての部材が搬入され、施工業者さんも揃いましたがここでトラブル発生。設置する東側の畑は緩やかな傾斜地で、傾斜を水平にならしてからでないと設置が難しいということが工事予定日の直前に判明したのです。また、モジュールの向きは「真南」が理想的という案が出ていましたが、傾斜地と景観を考えると現実的ではないだろうと断念。

モジュールの向きは、東南面の住宅の壁とほぼ合わせる形となり、土台は急遽、重機による造成。思わぬ時間を要しましたが、業者さんの連携プレイでなんとか水平な土台が出来上がりました。

フラット出しされた土台(畑)に、次々と支柱が立てられていきます。

モジュールを取り付ける架台は60度の傾斜。家のモジュールよりも角度が浅い分、発電量が上がります。

一枚の重さ20kgものモジュールが次々と取り付けられていきます。

工事は3日かかりましたが、幸いお天気にも恵まれ、架台が設置されてからは順調に進みました。ソーラー監督も日向ぼっこしながら見守っています。

室内では、複雑な配線&電気工事が進みます。蓄電池も最新モデルに交換いただき、グレードアップ! これまでの蓄電池の2倍の容量を誇ります。

新たなシステムで発電量はどのくらい変わるのか

2023年11月10日、新たなシステムでの電力自給がスタートしました。「ソーラーシェアリング」といってもこの季節なので、モジュールの下で作物を育てるのは春からの予定。雪の季節を目前に、まずはこの架台や新システムが、天候の厳しい冬も問題なく稼働するかどうか、実証実験の始まりです。

これまでのシステムと比較すると、モジュール、蓄電池ともに容量と能力が上がり、これまで年間発電量約5,000kWhだったものが、9,000kWh以上期待できるとのこと。もしEV車に切り替えた場合は、年間2,000kWhほどの発電量が必要とされますが、それもクリアできるということになります!

雪国ならではのソーラーシェアリングと春に向けて

写真は2024年1月25日の様子。残念ながらこの冬は本当に雪が少なくて、本来であればシェアリングの支柱は全部雪に埋れてもいいくらいの時期でもこの通り。実証実験も困難な状況ですが、こればかりは自然のことなので致し方ない。

今シーズン貴重な大雪だったこの日、住宅の壁面モジュールにはほとんど雪が付着していないけれど、シェアリングの方は真っ白だったのは、10度の角度の違いと風向きでしょう。ただこれも、雪が弱まると同時に次第にモジュールに付着した雪は滑り落ち、すぐに発電してくれます。

北信地域にもたまに野立ての太陽光発電を見かけますが、高さと角度がないため、冬の間は雪に埋もれてしまいます。発電しない上に雪の重みで破損にも繋がるとのことですが、このシステムであればその心配も無用!

天気のいい日は、周囲の雪の反射も伴い、ものすごい発電量を叩き出します。数値で見ると仕様の1.5倍程度、予想を大きく上回る発電量です。こちらは2月13日。例年であれば、積雪マックスくらいの時期ですが、シェアリングの架台は全く埋もれることなく、架台の耐久テストについては来年に期待するしかありません。

モジュールは本当は、住宅と同じオールブラックのタイプを希望していたのですが、生産終了につき叶わず、またシェアリングの架台の色はアルミでなく、住宅の外壁と近いカラーに塗装したかったのですが間に合わず、景観にこだわる私たちにとっては、少し課題が残る仕上がりではありますが、真冬でも十分過ぎるほどの電気を作ってくれていることには感謝しかありません。

架台の塗装についてはこれから自分たちでカスタマイズしよう!と考え中です。そして、一番は雪解けから「シェアリング」をいかに生かすかということ。この背の高い支柱を使って、ブドウを植えようか、ゴーヤのツルをはわせるか、キウイ棚にもなりそう、などなど妄想が膨らみます!

農業が盛んな飯山では、高齢化とともに休耕地もあちらこちらに見受けられます。豪雪地にも対応するソーラーシェアリングであれば、地域としての電力自給率も大きく上げられるでしょう。森林を切り開いて建設するメガソーラーは大反対ですが、休耕地や農地を活用するソーラーシェアリングという形には大きな可能性を感じます。もちろん景観や、生態系への配慮、モジュールのリサイクル問題など、課題を解決しつつ、この実証実験が良きモデルケースとして波及していけばと思います。

  • 尾日向梨沙

    1980年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、13年間、スキー専門誌『Ski』『POWDER SKI』(実業之日本社)などの編集を担当。2013年より同雑誌の編集長を務める。2015年、フリーランスとなりスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を写真家・渡辺洋一と共に創刊。2018年より藤沢市鵠沼の自宅を舞台に歴史的建造物と周辺の緑の保存活動を開始。2020年に、湘南から長野県飯山市に移住し、パートナーのケンさんと共にハーフビルドでマイホームを建築。雪国でスキーを取り込んだライフスタイルを実践しつつ、同時に畑での野菜作りを行うなど、自然に寄り添った暮らしを目指す。2020年秋からは、太陽光発電&蓄電システムを取り入れ、できる限り電気を自給自足するこころみもスタート。長年スノースポーツに携わる中で実感してきた地球温暖化について向き合い、ケンさんと愛猫の空(ソーラー) くんと力を合わせ、自分なりのソリューションを試行錯誤中。

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