Vol.9 山菜採りや畑仕事の季節、旬の恵みで豊かな食卓を

Text: Lisa Obinata Photo: Takanori Ota

4月下旬。周囲の雪もすっかり溶けて、真っ白に覆われていた景色が少しずつ色味を帯びてきます。私たちの飯山ライフもついに季節が一巡しました。今回はそんな春ならではの恵みのお話。

4月はまだまだスキーシーズンですが、ホームゲレンデの戸狩温泉スキー場は営業終了し、ゴールデンウィークまで営業している野沢温泉や志賀高原、白馬へと足を伸ばします。春スキーを楽しみつつ、野良仕事が増えてくるこの時期。雪が降るまで毎日のように顔を合わせていた近所の“おばあ”たちは冬の間は冬眠しているのか、我が家の周囲は全くひと気がなくなります。雪解けとともに待ってました!とばかりに、おじい、おばあが外に出てきて、急にみんな活発に動き出すのです。畑に残った残雪は、重機やスコップで“雪割り”して融雪を促すのだとか。雪が大好きな私たちは残雪を追い求め、なかなか畑モードになれずにいましたが、日に日に芽吹く緑や雪解け水の流れる小川、久しぶりに見る花の姿に春の訪れを感じ、嬉しくもなります。

我が家の畑からは、雪が降る前に収穫しきれなかった冬野菜が4ヶ月ぶりにお目見え。大根やカブなど、雪下で長期熟成されて甘いものもあれば、ネズミやモグラにかじられてスカスカのものも。

小松菜や白菜、チンゲン菜などの葉物は、越冬すると茎葉が「トウ立ち」して花が咲きます。いわゆる「菜の花」です。移住して初めて知ったのですが、菜の花とは、これらアブラナ科の野菜に咲く黄色い花の総称であり、この時期の茎葉と蕾を「とうたち菜」と呼んで収穫し、こちらの人々はお浸しや炒め物にして食べるのだそうです。

私たちも畑仕事を再開し、根菜や各種とうたち菜を収穫。ほのかな苦みと甘みのある春の味を楽しみました。作物や残骸を取りきった畑は、新たな作付けに向けて全面キレイに耕し、畝作りに入ります。

そしてこの時期の大きな楽しみと言えば山菜採り。移住1年目の昨年は、山菜の生えている場所を教えてもらったり、自分たちで探し歩いたり、種類を学んだりと完全初心者でしたが、2年生となり、探し当てるのにも慣れてきました。

いつもは夕方の散歩ついでに、徒歩10分圏内で山菜採りをすることが多いのですが、この日は近所ではなかなか目にしない「コシアブラ」を探しに朝から山に入ることになりました。

眩しいほどフレッシュな新緑に癒されながらトレイルを歩きます。途中、ブナの若葉の観察をしたり、熊の爪痕を見つけたり。枯葉でフカフカの道は歩くだけでも気持ちよく、森林浴に訪れたかのようです。

奥の方まで進むとついにコシアブラを発見!! 食べたことはあるけど、自分たちで採るのは初めてのことだったので、興奮気味です(笑)。届かないくらい高い枝の先端に芽を出していることが多いのですが、枝はとっても柔らかいので、しならせながら2人で連携してもぎとります。ひとつの樹から全部採らず、翌年のために、ひと芽は残しておくのが山菜採りのルール。見つけるとついついたくさん採りたくなってしまうけれど、自分たちがいただく分を少しだけという考え方、大切ですね。

山から下りて、我が家の周辺もチェック。いつものスポットにちゃんといました、タラの芽くんに、コゴミちゃん。昨年はタラの芽の見分け方もわからずに、よく似たウルシを採って危うく食べてしまうところでした(通りすがりのご近所さんが指摘してくれた)。タラの芽はこのトゲトゲが目印。コゴミはもう至る所に大量生息しているので、飽きるほど食べられます。

右からコゴミ、タラの芽(上)、コシアブラ、ワラビ、アサツキ。半日、近所を歩いただけでこれだけの食料を得られるとは、山の暮らし、最高すぎます! 早速この日のランチにいただくことに。採れたての山菜を美味しくいただくには天ぷらが一番。普段、私は揚げ物をほとんど作らないので、健さんにお任せして、私はお蕎麦を用意。

信州の生そば(&庭のアサツキ)に、山菜天ぷらの盛り合わせ、コゴミのお浸し、手作り蕗味噌。いつもこんな豪華ランチをいただいているわけではないけれど、こうして山の幸が食卓に並ぶことは移住してからの日常となり、外食はめっきり減りました。

山菜の女王コシアブラの美味しさに、頰が緩みっぱなしのワタクシ。自生、旬、採れたて、自分で採って食す。美味しいに決まっていますね。冬眠明けの熊はまず山菜を食べて、デトックスすると聞いたことがあるけど、このほのかな苦味は、冬から春を迎え活動的になる人間も欲している味なのかなと思います。

山菜シーズンが終盤を迎える頃、アスパラガスの登場です。飯山市はアスパラの産地としても知られていて、我が家の目の前にも広大なアスパラ畑があります。その畑も私たちが取得した土地なのですが、昨年はそれまで耕作を続けてきた近所の“おじい”にそのまま使ってもらっていました。ところが春になって「おら、もうそんなにできんから、このアスパラもおめえらでやれ〜」と、突然アスパラ畑を引き渡されたのです。

アスパラ栽培になんの知識もありませんが、まずはひたすら収穫。5、6月はほぼ毎日のように採れたてを食べ放題! と贅沢すぎる悲鳴だけれども、さすがに食べ切れないので、地元の市場に卸す方法を教わり、出荷も始めました。

朝一番に採ったアスパラは本当にみずみずしくて、生でもいただけるほど。神奈川に住んでいた頃には出会ったことのない、太さ、甘さに、2シーズン目なのに毎度感動してしまいます。

この日は朝から大雨でしたが、神奈川に残している家で野菜販売イベントを予定していたので、そちらに出荷するために大量に収穫しました。

出荷の際はまず太さを選別します。市場の場合は26cmに切り揃えるという基準があり、隣のおばあにいただいたお手製の木箱にアスパラを入れて、26cmの目盛りでカット。それを1束100gになるように束ねていきます。

5、6月の間、この作業も日課となり、だいぶこなれてきました。今まではスーパーで購入していた野菜も、初めて生産者側の作業や思いを知る機会を得ました。ついついアスパラに声をかけながら、どなたか知らない方の食卓への旅立ちを心を込めて見送ります。

大雨のこの日、太陽光モジュールにも大粒の雨が降り注いでいました。モニターを見ると発電量は0.1kw。こんな雨でも発電量はゼロではないんです。

太陽の光で野菜はすくすくと育つけれども、もちろん雨も大切な要素。飯山に移住し太陽光生活を始めてから、生きていくために必要な電力や食料は、自然の恩恵を大きく受けていることをリアルに感じるようになりました。6月の夏至に向かって、日射時間がのびていくこの季節。冬に比べ電力の消費量も減り、電気も食べ物も、自給自足率のアップが楽しみです!

  • 尾日向梨沙

    1980年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、13年間、スキー専門誌『Ski』『POWDER SKI』(実業之日本社)などの編集を担当。2013年より同雑誌の編集長を務める。2015年、フリーランスとなりスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を写真家・渡辺洋一と共に創刊。2018年より藤沢市鵠沼の自宅を舞台に歴史的建造物と周辺の緑の保存活動を開始。2020年に、湘南から長野県飯山市に移住し、パートナーのケンさんと共にハーフビルドでマイホームを建築。雪国でスキーを取り込んだライフスタイルを実践しつつ、同時に畑での野菜作りを行うなど、自然に寄り添った暮らしを目指す。2020年秋からは、太陽光発電&蓄電システムを取り入れ、できる限り電気を自給自足するこころみもスタート。長年スノースポーツに携わる中で実感してきた地球温暖化について向き合い、ケンさんと愛猫の空(ソーラー) くんと力を合わせ、自分なりのソリューションを試行錯誤中。

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