Vol.13 紅葉の飯山古寺めぐりと冬仕度。雪の季節がやってくる【前編】

Text: Lisa Obinata Photo: Takanori Ota

11月。薪ストーブをつける日が増え、山の紅葉も終盤という時期になるとソワソワしてきます。あぁ、もう少しでまた辺り一面真っ白になるんだなぁという楽しみと、雪が降る前に片付けなくてはという野良仕事に、雪関係の執筆業に、スキーの道具の準備などなど、なんだか慌ただしい。

やることは満載なのだけれど、ここでは季節の移り変わりが本当にはっきりとしていて、この時、この瞬間を逃したくない、という気持ちになります。畑に日が当たっている時間帯に畑仕事をしたり、天気を見て薪を乾かしたり、風のない穏やかな日に自転車に乗ったり、雨の日に一気にデスクワークを片付けたりと、自然のリズムに合わせて動くようになりました。発電している時間帯に電力の大きい家電を使うというのも、太陽光生活ならではの新しい暮らしぶりです。

紅葉は季節の移り変わりの象徴のようなもの。窓の外の色合いは日々変化し、里山の風景を彩ります。紅葉のピークは少し過ぎていたけれども、条件の整ったある日、紅葉狩りに出かけることにしました。

遊びと言えば山に向かうことが多い私たちだけれど、この日は飯山市街地へ。飯山の中心部には、飯山城址を中心に22ヶ所のお寺が点在し、その風情ある街並みは「雪国の小京都」と言われているほど。移住して1年半が過ぎましたが、1〜2軒のお寺や神社に立ち寄ったことがあるくらいで、古寺めぐりは初めてでした。

スタートは正受庵から。今から約350年前、真田家ゆかりの禅僧が住み修行をした道場は、現在は長野県史跡として保存されています。苔むす茅葺き屋根と、手入れの行き届いた庭園が美しく、歩くだけで心が浄化されるかのよう。

続いて本光寺から南へ、「寺巡り遊歩道」を使って1軒ずつ周ります。七福神が安置されている寺社があったり、お寺の隣に神社があったり。今は無き飯山城との位置関係や、何百年と生きる巨木を見上げながら、遠い昔、この地で生きる人々が何に祈りを捧げ、どんな景色を見ていたのか、想像をめぐらせて歩きました。

大きなイチョウがシンボルツリーのように入り口に構え、黄色い絨毯が広がる常福寺。井戸水でほうれん草を洗っていた住職さんを見つけ、声をかけてみました。

「立派なイチョウですね、ギンナンもたくさん取れますか?」「今年は実らないんだ。40年見てるけど、こんなに取れない年は初めてだよ」。住職さんは例年の何十分の1というわずかなギンナンを見せてくれて、本堂を開けるからお上がりなさい、と導いてくれました。

ここは七福神の「大黒天」を祀るお寺でもあり、座禅体験も行なっているそうです。お参りをすると先ほどの住職さんが法話を聞かせてくれました。

「ありがとう」「すみません」「いただきます」「ごちそうさま」という言葉の由来に、仏とは何か、西洋文化が入ることの意味などなど、とめどなく続く説教に、つい時間を忘れ引き込まれてしまいました。

特に印象的だったのは、地球温暖化防止の一番の方法は、仏教徒を増やすこと、という考え。仏教では、動物はもちろん、虫1匹だって殺さない不殺生戒の教えがある。地球温暖化の原因のひとつに、牛のげっぷに含まれているメタン=温室効果ガスの大量放出と言われることがあるけれど、肉食がタブーとされる仏教徒が増えれば、温暖化防止に大きく貢献するだろうと。全く考えたことがない視点だったけれども、仏教の教えには、目から鱗のお話がたくさん詰まっていました。

寺めぐりも終盤、スキーヤーにとって外せないお寺に立ち寄ります。妙専寺(青龍山安養院)には、スキーを履いた住職の銅像! 1911年、新潟県高田にオーストリアのレルヒ少佐により、スキーが伝えられました。その翌年、レルヒ直伝のスキー術を習い、飯山地方に普及させたのが、この寺の第17世住職、市川達譲でした。飯山は長野県スキー発祥の地なのです。

ラストは称念寺へ。境内一面を彩るモミジがなんともお見事。我が家から望む山の紅葉はブナなど黄色く色づく木が多いので、赤く染まるモミジのトンネルをくぐるような庭園は、本当に京都旅行に来たような気分になりました。今まで幾度となく、このお寺の近くを車で通過していましたが、こんな素敵な場所だとは!

お寺が多数連なる通りと並行して、「雁木通り」という雪よけの屋根が連なる昔ながらの商店街があります。飯山伝統の仏壇店が何軒もあり、通称「仏壇通り」とも呼ばれています。ランチはこの通りに昨年オープンした「Good Mountains」さんへ。周囲の景観に合わせた店構えに、昔のスキーやブーツのディスプレイが素敵な空間をつくるカジュアルレストランで、普段からよく利用しています。ピザやパスタも美味しいけれど、イチオシは飯山ラーメン! 化学調味料無添加の中華そばはじっくり煮込んだ深みのあるスープが特徴的。

すっかり観光客気分で、帰りには老舗の和菓子屋さんに立ち寄り、バナナボートを購入。知る人ぞ知る?飯山名物の冬のおやつで、数ある和菓子屋、洋菓子屋にそれぞれ趣の異なるバナナボートが販売されているので、気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。

紅葉の飯山古寺めぐり、近くに住んでいながら知らないことがたくさんあり、地域の歴史と文化を学ぶ有意義な時間となりました。新幹線が通り、駅前開発など新しい街づくりに注目が集まる一方で、こうした一度壊したら二度と復元できない旧市街を守り、地域の財産として生かす街であってほしいと思います。そのためには、地元民が地域のことを知ることも大切ですね。

この続きは、Vol.13 紅葉の飯山古寺めぐりと冬仕度。雪の季節がやってくる【後編】へ。

  • 尾日向梨沙

    1980年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、13年間、スキー専門誌『Ski』『POWDER SKI』(実業之日本社)などの編集を担当。2013年より同雑誌の編集長を務める。2015年、フリーランスとなりスノーカルチャー誌『Stuben Magazine』を写真家・渡辺洋一と共に創刊。2018年より藤沢市鵠沼の自宅を舞台に歴史的建造物と周辺の緑の保存活動を開始。2020年に、湘南から長野県飯山市に移住し、パートナーのケンさんと共にハーフビルドでマイホームを建築。雪国でスキーを取り込んだライフスタイルを実践しつつ、同時に畑での野菜作りを行うなど、自然に寄り添った暮らしを目指す。2020年秋からは、太陽光発電&蓄電システムを取り入れ、できる限り電気を自給自足するこころみもスタート。長年スノースポーツに携わる中で実感してきた地球温暖化について向き合い、ケンさんと愛猫の空(ソーラー) くんと力を合わせ、自分なりのソリューションを試行錯誤中。

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